もう6年前の話になります。
夜中に玄関から声が聞こえるため、母が何事かと思い、とりあえず力になりそうな俺を起こして、二人で玄関に行くと、曾祖母が一人で玄関に向かって喋ってました。
90歳を越える祖母は、普段は介護が必要で、なかなか一人では歩けない人でした。
「誰と話してるの?」と母が尋ねると「マツモトさんが、タンスを買ってくれと言って、買わないと答えてもなかなか帰ってくれない」と言いました。
玄関を見ても真っ暗で、もちろん誰もいません。
寝ぼけてるのか、そう思った俺と母は、
「とりあえず部屋に戻ってゆっくり寝ましょう。マツモトさんには私から断っておきます」
そう言って母は「すみません、マツモトさん」と誰もいない玄関に向かって曾祖母のために演技をし、俺は曾祖母を部屋に連れていきました。
次の日の昼間、曾祖母は突然の心停止で亡くなりました。
今から思うとあの出来事は、あの世からの迎えが来たとしか思えません。
後日談ですが、マツモト家具という店が、曾祖母の育った家の隣に昔あり、戦後の不況などで一家は夜逃げ同然でいなくなったそうです。