軍刀には血がついていたらしい

カテゴリー「心霊・幽霊」

知り合いが応募したのは、通いじゃなくて村にある民宿に泊まりこんでのバイトだった。

そこの民宿をやってる爺さんがなんでも南方帰りの元陸軍少尉だとかで、一日目を終えて酒飲みながら知り合いや他の応募者と楽しく談笑してたんだけど、どこをどうまかり間違ったか突然猿たちの寝ぐらへ夜襲をしかけると言い出した。

その爺さんってのが丹波哲郎みたいな顔つきで、おまけに老いたとはいえ元帝国陸軍の士官様。

「夜襲により安全な寝ぐらを脅かされれば奴らは撤退する」
「敵の虚を突くのが兵法の云々」とまあ、完全に変なスイッチが入ってしまった上に、愛用していた軍刀を持ち出してやる気満々な爺さんを止めることも出来ず、それに言われてみれば確かに寝ぐらを襲われたらここからいなくなるかも、という考えから夜の里へと繰り出した。

目指すは猿達が寝ぐらとしている村外れの神社の裏手の森。
一行は静かに境内を通り過ぎ森へ。

広葉樹の葉は粗方落ち、空に浮かんだ月の光に樹上の猿達が影となって浮かび上がる。
完全に現役だったころに戻ったような爺さんの大音声の号令とともに四方八方に撃ちまくる。

辺りは猿たちの悲鳴と爺さんの怒鳴り声で大変な騒ぎ。
と、その時。
一人が悲鳴を上げた。

そちらに顔を向けた瞬間、爺さん気合い一閃、闇夜に向かって軍刀を唐竹割に振り下ろした。
それに続いて他の音をかき消すような凄まじい叫び声。
踵を返した爺さんはさっきよりもっとでかい声で「退却!!」と叫んで駆け出した。
皆一様に訳が分からず後を追い、全速力に近い早さで民宿までの道を駆け抜けた。

民宿に戻るなり爺さんは塩と酒を頭から被り、他の全員にも同じようにした。

その後は打って変わっておとなしくなり、すぐに床に就いてしまった。
訳が分からなかった知り合いは、最初に悲鳴を上げた人に何があったのかと尋ねてみた。
その人は酷く怯えていて、「でかい猿」がどうのとか「笑ってた」とかいう断片的な事しか聞けなかったそうな。

翌日、爺さんから約束より少し多い賃金を頂いて皆帰されたため、その後のこともとんと分からないという。

ただ、民宿へ走って帰ったあの夜。
玄関に駆け込んだ爺さんの軍刀からは確かに血が滴っていたという。

「何かを斬ったのかまではわからない」

知り合いはそう言っていた。

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