知り合いの話。
春先の暖かい日に、川沿いの山道を歩いていた。
すると、川上から奇妙な物が流れてくるのに気が付いた。
大きな平べったい四角。上に白い影が置かれている。
流れてくるにつれ、それが何か目視で確認できるようになった。
雨戸などに使われる大きな戸板だ。
そしてその上にゴロリと寝かされた、死に装束に身を包んだ男性。
非現実的な光景に硬直していると、川面を破って毛むくじゃらの腕が突き出される。
腕は戸板の縁に指爪を掛け、一気にひっくり返した。
戸板もその上の亡骸も、次の瞬間水の中へ消えていた。
不思議なことに、水飛沫も水音も、何一つ見えなかったし聞こえなかったという。
白昼夢を見た思いでそのまま歩き続けた彼は、やがて小さな廃村に辿り着く。
当然のことながら誰の姿も無く、あの戸板を川に押しやった者も確認できなかった。