センサー型のライト

カテゴリー「心霊・幽霊」

俺は今妹と二人で一軒家に住んでいて二人で一台の車を共有して使っている。
その車を普段止めてあるのが中が見え見えのガレージもどきなんだ、そんなガレージだから一応の防犯にと妹が買ってきたセンサー型のライトをつけてみた。

ところがライトをつけてから数日たって向かいの家の人が妹に「ここ数日真夜中にガレージが明るくて迷惑だ」といった趣旨のことを遠回しに言ってきたらしい。
向かいの人は俺が夜中に車でもいじってるんだろうと思ったらしいが、もちろんそんなことをする訳が無い。
どうやら泥棒が大胆にも毎日我が家に来ているらしい。

そこで俺はその日の夜中にガレージに一番近い1階のトイレで電灯を消し一人で泥棒が来るのを待った。
暗い中で暇つぶしに見ていた携帯のデジタル時計が1時をまわった頃だった。
トイレの窓からガレージのライトがついたのが分かった。
俺はあらかじめ外に出しておいた箒(ほうき)があるのを確かめて玄関からそっとガレージを覗き込んだ。

二台車の入るガレージには一台の車しか入れてなかったわけだからガレージには少し開けた空間があった。
明るく光るライトが床のコンクリを照らし周りの闇から浮き上がらせていた。
その光の中央にはこちらに背を向けた一人の男が立っていた。

怒鳴って驚かせてでもやろうかと思ったがどうにも様子がおかしいことに気がついた。
男は車を物色するでも光を恐るでもなく、ただ立っているだけだったのだ。
男の纏う異様な雰囲気を振り払うように俺は鋭く「何してる」と言ってみると男はその声に反応しゆっくりとこちらに振り向いた。
男の目がこちらから見えた瞬間、鳥肌が全身にたった無感情な目だったのだ。
それこそ死んだ魚のような目というのが当てはまるような・・・。

しばらく俺はその目を見据えると男は不意によろよろと後ずさり闇に溶けてどこに行ったか分からなくなった。
俺は不気味に思いながらも後を追うことはせずその日は眠りについた。

俺は次の日も念の為に、とガレージを見張ることにした。
果たしてデジタル時計が1時をまわるとガレージの灯は光を灯した。

「またあの男か・・・」

そう思いながら玄関からガレージを覗き込むと女性の後ろ姿が見えた。
あの男ではなかった安堵が心を覆い俺は「何してるんですか」と警戒せずに言ってしまった。
声が聞こえると彼女はゆっくりと振り返った。

俺はハッと息を飲んだ。
その女性もあの目をしているのだ・・・死んだ魚のような、光を灯さないあの目を。
今度は女が立ち去るのを見ることなく急いで玄関に入り鍵を閉めた。

何か得も知れぬ恐怖を感じた俺は次の日からはトイレの中からガレージの灯を見る事しか出来なくなってしまった。

少しずつ日中の仕事にも手がつかなくなり自分でも限界を感じはじめたある日。
俺は持てる勇気を振り絞りトイレ特有のすりガラスを開け鉄格子の嵌った窓からガレージを覗けるだけ覗いた。

鉄格子に顔を擦り付けガレージをじっと見つめる。
後もう少しであいつらの立っていた所が見える。
そう思ってさらに身を乗り出そうとした時だった。

唐突に目の前にあの濁った目が現れた。

ガレージに気を取られ過ぎていた自分を呪った。
トイレに俺がいることに気づいたあいつはガレージからこのトイレまで登って来たに違いない。
死角になっていて気づかなかったんだ。

狭いトイレの中であいつと顔を合わせ、あたかも自分に逃げ場が無いように思え、パニックになる。
声にならない悲鳴を上げながら俺はトイレの窓を乱暴に閉めた。
すりガラスに写る影が薄くなったのを見てホッと息をついた。

束の間トイレのすぐとなりの玄関の扉がガタガタと音をたてて揺れた。
入って来ようしている・・・。

俺はトイレから這い出て慌てて玄関の鍵が掛かっているのを確認した。
なおも音をたてて扉は揺れつづける。
すると突然音が止んだ俺はじっと扉の向こうを見つめた。
どこかでカチャンという、なんとも頼りない音が響いた。
僅かな音に心臓が跳ねる。

少し遅れて玄関の鍵が開いたのだということに気づいた。
俺は得も知れぬ恐怖への確信を抱き、今度こそ錯覚ではない逃げ場のない絶望を感じた。

妹の寝室から離れた2階の部屋に逃げ込んだのは僅かに残った理性だった。
階段を上ってくる気配を感じた俺はドアを本棚で塞ぎそれにもたれて座り込んだ。
階段を上りきった気配はドアに手をかけた背中に感じる圧力に慌てて俺は対抗する。
どこか非現実的なこの葛藤も扉の向こうから聞こえてくる息遣いのせいで俺は諦めることもできずに必死に本棚を押し返した。

気がついた時には本棚を押すのは俺だけとなっていた。
もう扉の向こうの気配は無くなっていた。
握り締めていた携帯を見ると二時になりかけたところだった。

これまで霊体験などしたことは無かったが・・・あいつは人間ではないことは分かった。
小さい頃はそんな体験に少し憧れたものだが、もう二度とこんな目には遭いたくはない。

その時だった。
コツンと鈍い音がした。
音は無音の部屋によく響き、俺は咄嗟に音のした方を見上げた。

開け放たれたカーテン。
暗い部屋の中から見える窓の外の暗いベランダ。
あの無表情な目が、あの死んだ魚の目が、あの濁った目が、何人ものあの目をした奴らがこちらを覗きこんでいた。

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