真新しいお札が貼ってあった

高校のころ、夏休みとか冬休みに一人旅をしてた。
といっても、県外に2、3泊するくらいの観光地巡りで、文字通りただの国内小旅行だった。

でも、まあ、初めての土地は珍しいものばかりで、それなりに楽しい。
ガイドブック持ってさ、時間の許す限りいろんなところを見て回った。

ただ、もちろん金はない。
切り詰めるため、移動は青春18切符に頼っていた。

JRの鈍行と新快速なら1日乗り降りし放題で、始発の電車に乗り、移動距離を稼ぐ。
昼頃から夜まで観光して、安いビジネスホテルに宿泊するのが定番だった。

高2の夏、Y県に行ったときのことだ。
昼間は有名な滝とか神社とかを見て回り、日が暮れてから予約してたホテルにチェックインしたときは結構くたくたになっていた。

日本中の主要な駅前にはあるようなチェーン店のホテルだったけど、素泊まり4000円ちょいの安さに見合った古い建物。

まあ、もともと貧乏旅行だし、こんなのも思い出になるかと思い、あまり気にせず5階の部屋に入った。

中はいたって普通のシングルルーム。
ベッドと小さなテレビ、文机、ミニ冷蔵庫しかない。
厚めの遮光カーテンで薄暗く、ベッドの横の壁には安物っぽい絵が飾ってあった。

この日は予定していた日程の最終日。
明日はもう帰宅するだけなんだけど、実家からかなり離れた土地まで来てしまっていた。

明日は朝4時半の始発に乗らなければならない。
ホテルのフロントにそれを伝えたら、裏口を一晩中開けておくので、チェックアウトは鍵だけカウンターの籠に入れといてくれれば勝手に出て行って構わないとのこと。(宿泊料は前金で払った)
ご厚意に甘えさせてもらうことにした。

で、部屋でペイチャンネルでアダルト番組見ながら、コンビニで買ってきた晩飯を食ってた。

ふと、ベッドの横の絵が気になった。
どっかの山が描かれた風景画なんけど、妙に薄気味悪い存在感がある。
絵というより、それが収まってる額全体が、なんか気持ち悪い。
そんな感覚初めてだったけど、何故かピンときた。

まさかなあ、とか思いながら額をめくってみたら、案の定、御札らしき紙が貼ってあった。

正直なところ、かなり気味が悪かった。

フロントに言って部屋を変えようと思ったけど、でも、御札は真新しいし、どこも傷んだ様子ない。

効力(?)は十分ありそうだ。
一晩くらい大丈夫だろうと考え直した。
何より、もう寝なければ翌朝、寝過ごしたら洒落にならない。

というわけで、額を元に戻し、テレビの電源を切って、目覚ましをセットした。

そのとき、視界の端で何かが動いたのが見えた。
テレビのリモコンが、文机の上を滑っていた。
ひとりでに。

普段なら、ビビりの自分なら、それだけでかなりの怪異体験だと騒ぐはずなんだけど、この日は違った。

たぶん、旅行疲れで頭が働いていなかったんだと思う。
とりあえず、その現象は無視することにした。
リモコンはそのまま床に落下した。

で、それを放置したまま、ベッドに潜り込み、枕元のスイッチで部屋の電気を消した。

瞬間、文机の上に置いていたペットボトルのお茶も落下したらしき音がした。

これもスルー。
布団に入った途端、どっと疲れが押し寄せてきて、早く眠りに落ちたかった。

でも、それは妨害された。

一瞬でまどろみかけたとき、耳元で話し声が聞こえた。
小さな声でボソボソと何か言ってる。

最初、眠たい頭でテレビの消し忘れだと考えた。
めんどくさいけど気になって仕方ないから、一度起きて床に落ちたままのリモコンを拾い、電源を押した。

当然、最前まで見ていたアダルト番組がついた。

おかしいなあと思いつつ、再び電源を押し、今度はきちんと消えていることを確認してから、今度こそ寝ることにした。

ボソボソ声はまだ続いている。
しかも、さっきよりはっきりと聞き取れる。

二人だ。
男の声と女の声。
男の方は低い声で「うう~、うう~」って唸ってるような感じ。
お経でも読んでいるみたいで、女の方は明らかにすすり泣いていた。

これはあれだ。
隣部屋の人が大音量でアダルト番組見てるのが、こっちまで響いてきてるんだな。

迷惑なオッサンだ。
こっちは明日、早いってのに・・・。

そうでなかったら、どうせいつものアレなんだろ?
いつも通りじゃないか。
それよりもう寝るんだよ。

何故か自分はそう思い込んだ。
そのとき、耳元でひときわ大きな声が響いた。

「そうだよ」

本当にびっくりした。
男の声だった。

一瞬で目が覚めた。
よくよく考えてみると、ここは角部屋で壁の向こうに部屋なんかなく、しかも5階・・・。

急激に怖くなり、荷物をまとめると部屋を飛び出し、鍵をフロントに投げ渡すようにしてホテルを飛び出した。

その日は近くの城址公園で野宿した。
本当に夏でよかったW

そして、今でもたまに考える。
あの時、自分は、何を「いつものこと」と納得しかけていたんだろう?

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