中学一年生のとき、親元を離れて親戚の家に下宿していた。
そこは静かな住宅街にある一軒家。
私がいた部屋は二階の和室で、窓の下が細い道だった。
夜の九時を過ぎた頃、部屋にいると、シャン、シャンと音がして、何かが近づいてくる。
足音だとしたら、すごくテンポが遅くて、シャン、という音が完全に消えてから、次のシャン、が始まる。
その音は、外壁のすぐ前まで近づき、少しの間とまってから、また遠ざかっていく。
近所の人が外の道を歩いているんだろうと、はじめのうちは思っていた。
けど、一か月もする頃に、気づいたのだ。
外を歩く人がいても、窓を閉めているのに、足音なんて聞こえない。
夜の九時を回った、ちょうど同じ時刻にだけ、あの音がする。
じゃあ、なんだ?ということになる。
窓を開けて外を見れば、原因は、はっきりしたかもしれない。
けれど、私はしなかった。
なぜか、何もせずに、やりすごす方が良いと決めてしまっていた。
そのことを、親戚夫婦にも親にも言わず、ただ、同じ時刻に近づいては遠ざかる音を聞いていた。
家の持ち主の親戚は当時、六十代の夫婦だったが、秋口に小母さんが体調を崩して、私は親のところに戻った。
後になって、親から聞いた。
親戚の小父さんの母親、小母さんにとっては姑さんと小母さんの折合いが悪く、結局は姑さんが、
家の中で、首を吊ったのだという。
その後、同じ場所に建て替えたのが、私の下宿した家だった。
現在、小父さんも小母さんも亡くなり、二人の息子が一人で、あの家に住んでいる。