以前病院に勤務してたんだけど、あるとき夜遅くに霊安室のそばを通りがかったら、線香のにおいがした。
これは普通。
あー患者さんの誰かが亡くなったんだなーと思ってちょっとだけしんみりした。
でも、なんとなく霊安室の扉を見たら、少しだけ開いていた。
それだけじゃなく、じわじわとさらに開いていっていた。
開いた扉の向こうは真っ暗で、わけもわからず硬直していたら、なかから手がのぞいて、思わず全力ダッシュで明るいほうへ走った。
そんで、もしかしたら認知症の患者さんが迷い込んでいたのかも?と考えて、受付の事務当直に事情を話し、霊安室に取って返した。
霊安室にも周囲にも誰もいなかった。というか、線香のにおいもなくなっていた。
調べてみると、その日、亡くなった患者さんはいなかった。
よくわからないまま、事務当直に「俺は今夜ひと晩ここで過ごすってのに、こわいことを言うのはやめろ!」とめちゃめちゃ怒られた。