母のランニングに付き合っていた時期があった。
母が走るのは夜で、危ないから一緒に走っていた。
二人で走るのが日課になって2、3ヶ月頃。
季節は夏だったのでTVでホラー番組がやっていた。
これを見終わったら走りに行こうと、リビングで母とそれをまったり見てたら突然、「まっくろくろすけがTVの下走ってった!」と。
はぁ?と思った私は「何言うてんねん」とその時は適当に流した。
番組も終わり、さぁ走りに行こうと二人ともランニングシューズを履いて家の外に出る。
家は車通りの多い大通り沿いにあって、そのまま緩やかな坂になっている通りを登っていく。
夜9時頃でも、ほかに人が歩いてたり走ってたりするような道だ。
その日は、歩道に出た瞬間からおかしかった。
足音が一人分多い。
母と私が横に並んで走っている2、3m後ろから、同じように走っているような足音がついてくる。
走りながら後ろを振り向いたが誰もいない。
聞き間違いだなと思った私は、わざと母と歩調を合わせてみた。
違う。
聞き間違いじゃない。
二人とは違う歩調の足音がやはり後ろから聞こえてきた。
もう気になって仕方なくて走っている途中何度も後ろを確認した。
母が「どしたん」と聞いてきたが、「なんでもない」とごまかした。
家から結構離れたし、今さら戻るのもなぁ・・・それに怖がらせるのも悪い。
足音を聞きながらしばらく走り、市役所を少し過ぎて折り返し地点に到達した。
回れ後ろをした頃にはもう足音は聞こえてこなかった。
お~よかった、どっかいったか、と少し安心して元来た道を走る。
そして、来たときとは逆側にある市役所に差し掛かった。
無人の市役所は少しの街灯しかなく、暗い。
通りに面した壁がガラス張りになっているので、非常灯の灯りしかないフロアが見えて結構雰囲気があって怖かった。
(暗いし怖いな~、怖い番組とか見なきゃよかった・・・)
なるべく市役所の方を見ないように走っていると、母が「市役所誰かいる」と。
私「いやいや夜やで、おらんやろ。いても警備員や。」
少しゾッとした私はなるべく冷静に返した。
母はそれ以上何も言わなかった。
心なしか、二人の走るペースが速くなる。
市役所を通りすぎ、また坂を登る。
家から市役所の間は丘のような地形になっていて、行きも帰りも登って降らなければならない。
帰りの坂道がこれまた結構しんどくて、息を切らしながら下を向いて母の左側で走っていた。
すると突然、3m程先にこっちに向かって歩いてくる誰かの足が視界に入った。
ハッと前を向くと、サラリーマン風の中年で小太りな男が、怒った表情でこちらを睨みつけながら肩で風を切って早足で歩いてくる。
気付いたときにはもう避けれる距離ではなかった。
「ぶつかる!」と思って咄嗟に体を傾けたが、男は避ける気配はなかった。
案の定、私の左肩と男の左肩がぶつかった・・・と思ったら、ひゅうっと風だけが肩を撫でていった。
「あれ?」と拍子抜けして後ろを振り向こうとしたが、なんだか寒気がして振り向くのをやめた。
母に「何あの人気持ち悪い!」と左肩をゴシゴシ撫でられた。
『今のは何だったんだ。幽霊?でもはっきり見えた。まるで人のように。いや、人だろうな。ギリギリかわせてかすったんだろう。』と、自分にそう言い聞かせたが、手首から二の腕にかけて鳥肌が立っていた。
それからまたペースが上がって(しんどかったw)、いつもより早く家に戻ってきた。
家に帰るや否や、「今日はなんや気持ち悪かったなぁ、塩かけとき塩!」と母に塩をかけられた。
母「ぶつかられたやろ?」
私「いやぁ、ぶつかったと思ったら、風だけ通りすぎてったわ。ギリギリかわせたんやと思う。」
母「えぇ~、それほんまに人かぁ・・・?」
母は嫌な顔をしていたが、それ以降その話をすることはなかった。
疲れていたし、きっと二人とも怖かったからだと思う。
それからしばらく経って季節は冬になり、走ると耳が千切れそうなくらい寒いのでランニングは一旦休みになった。
ある日ふと、あの日の話になった。
私「そういやあの日怖かったなぁ。」
母「あのぶつかられた日か?」
あの日のことは二人とも鮮明に記憶に残っていたようで、話が盛り上がった。
私「あの日なぁ家出た瞬間から足音がずっとついてきとってん。私ずっと後ろちらちら見てたやろ?w」
母「そやから気持ち悪かってん、お母さんには聞こえへんかったけど。」
私「あと帰り道のおっさんなぁ・・・、ぶつかったおもたけど、感触なかってん。ギリギリ避けれたんかもしれんけど、どっちやろなぁ~あれw」
母「あのジジイな・・・、いきなり現れたで。」
私「は?」
母「走ってたらいきなり前に来たで。」
私、ここで盛大に鳥肌。
母「見てへんかった?」
私「私下向いて走ってたから、足が見えて前向いたらもう・・・って感じやった。てかジジイってほど歳とってなかったやろ、リーマンやったやん。」
母「え?」
私「ん?」
私「いや、スーツ着た中年の小太りのおっさんやろ?セカンドバッグ小脇に抱えた。」
母「えええ!?違う違う違う違う!」
母「痩せた作業着のおじいさんやろ!」
もう二人ともパニックになった。
同じ日の、同じ人物の話をしているはずなのに話が噛み合わない。
私が見たのは「サラリーマン風の小太りの中年のおっさん(40代~50代)」
母が見たのは「作業着を着た痩せ型のおじいさん(60代~70代)」
私「同じ人を同時に見たのに違う人ってこと・・・?人間ちゃうかったん?(涙目)」
母「すごい怒ってたなぁ。」
私「そこは共通してるんや。」
母「良くないものの塊やったんやろなぁ・・・」
それからまたしばらく経ち春になってランニングを再開したが、その「おっさんorおじいさん」に遭遇することはなかった。
今思えば、母がまっくろくろすけ(?)を見たときから始まっていたんだと思う。
夜出かける前に怖い番組を見るのはやめようねw
本当に呼び寄せてしまうんだってこの時知った。
この話は終わりだけど、あの時こっちを睨みつけていたおっさんの憤怒の表情が忘れられない・・・
何度か心霊体験のようなものは経験してるけど、この話が今までで一番怖かったです。
ほかの話も機会があればまた。