地元の山の中にポッカリと開いた広場があり、その中央に石祠がある。
その石祠は地元の人から『ゴンゲンサマ』と呼ばれている。
『ゴンゲンサマ』は、山に於けるありとあらゆる事故、災厄から人間を守ってくれると言い伝えられている。
このように聞くと、『ゴンゲンサマ』は山神だと思うかも知れないが、決して山神では無いのだと言う。
寧ろ、『ゴンゲンサマ』は山神と呼ばれるのを嫌う。
そのため、地元の人達は『ゴンゲンサマ』の前では決して山神とは口にしない。
小学四年の時、そんなの迷信だと言って、友達と二人で確かめに行った。
『ゴンゲンサマ』の前で山神と呼び掛けても何の変化も無い。
「やっぱり迷信だ」
友達はそう言った後、帰ろうと俺に言って元来た道に戻ろうとした。
ふと、友達が突然立ち止まる。不思議に思って友達の目線の先を見ると、一匹のどす黒い色をした猿が居た。
「誰が山神じゃあボケェ!ワシはゴンゲンサマ言うんじゃあ!!」
人の言葉で猿が怒鳴ったかと思うと、俺達に向かって走り出して来る。
うわっと驚きながら、俺と友達は二手に別れ、山を降りて必死に逃げた。
家に着くと俺は急いで友達の家に電話をかけた。
友達は家に着いた直後らしく、息が荒かった。
「何だよ、あれ!?何だよ、あの猿!??」と、電話越しに友達はかなり興奮していた。
最終的に、今日あった事は二人だけの秘密と言う事になった。
あの日以来、俺と友達には何の異変も起こらなかった。
本当にそれっきりだった。
それとなく、お爺ちゃんやお婆ちゃんに聞いて見た事もあるが、何故『ゴンゲンサマ』の前で山神と言ってはいけないのか、もう分からないのだと言う。
猿との関連性も分からないとの事。
ただ、俺も友達もあの日以来、猿が苦手になった。