8年くらい前、悪友のKと2人で地元にある心霊スポットのダムへ行った時の話。
8月の暑い夜、いつものように2人で暇して、俺の運転でドライブしてたんです。
地元は結構な田舎でどこを見廻しても山が見えるみたいなとこ。
その日は街の中を走るのにも飽きてきて、山道を走ろうってことになりました。
で、ただ山道を走るんじゃなくて、心霊スポットへ行こうってKが言いだしたんです。
オカルト好きな俺はノリノリでKの案内する山の中のダムへ向かいました。
街から山へ入り、街灯もまばらになってきた頃、Kの指示で益々暗い脇道へと左折。
道もどんどん狭くなり、街灯も全くなくなりましたが「雰囲気あるな~!」なんてハシャギながらどんどん走って行きました。
すると、カーブを曲がった先に赤い橋がありました。
車1台しか通れないような幅の狭い橋で、暗さと、木々と、道の曲がり具合のせいで突然目の前に現れたように見えて、凄く不気味に感じたのを覚えています。
それに、その橋の半分を過ぎたくらいから、何だか視界が狭くなるような、後ろへ引っ張られるような感覚があって少し息苦しくも感じました。
それでもオカルト好きな俺達は、そんな感覚にも盛り上がってました。
いよいよ橋を渡りきった先がダムでした。
どこのダムもそうだと思いますが、ここのダムにも、村が沈んでるとか自殺があったとか、まぁありきたりな噂は色々ありました。
そんな話をKとしながら、少し道の広くなった所で車から降り、ダムの方へ歩いて行きました。
1本しかない懐中電灯はKが持っており、俺は暗闇で視界がほぼきかない中、「こっち?ここがダム?」とか言いながらガードルから身を乗り出して下を覗き込みました。
少し離れた所であっちこっちを照らし、ブラブラその辺を見て回っていたKは、「そうそう、そこがダム」と俺の方へ向き直し、こっちへ歩いて来るようでした。
ガードレールの向こうは急な斜面になっていて、どうやらその下の方に水が貯まっているらしい事が微かな水音で分かった。
ただ、木や雑草がかなり生えていて、暗いせいもあり目を凝らしてもダムの様子は分からない。
それどころか、目の前の木や草でさえもぼんやりと輪郭が分かる程度で、色や形をはっきりと認識することは出来なかった。
それくらい、明かりのない山の中は暗い。
薄い月明かりも木々に遮られた斜面までは照らしてくれない。
ダムから吹き上げてくるひんやりとした風を頬に感じながら暗闇を見つめていると、だんだんその深淵に引っ張られるような感じがしてきた。
重い。
身体が後ろからじんわりと加圧されるようにダムの方へ押される。
頭がぼーっとする。
夢を見ているような意識が引き込まれる感覚。
ふいにKが隣へ来てガードルの向こうを懐中電灯で照らして、「なんも見えねーな」と、
その声にハッとなって、「おー...」と適当に相槌を返し、懐中電灯の照らす円形の視界を目で追っていました。
その時、斜面の少し離れた左下の方から、「カサカサ...ガサ...ガサガサガサ」
と、草の中で何かが動く音がしました。
俺もKもめちゃくちゃ驚いて「うわぁ!!」と叫んで、そっちを照らして目を凝らして固まりました。
K「何?誰かいんの?」
俺「野生動物かなんかじゃねーの?」
K「お化けかな?」
俺「猪とかだったら、やばくない?」
K「雑草で何も見えねぇ」
とか話ながら、音の原因を探して目を凝らしていると。
懐中電灯の明かりが何かをとらえた。
人影だった。
木と雑草でよく見えないけど、斜面をこっちへ向かって登って来てる!
「え?なんで?人?」そんな事を言いながら混乱してソレから目が離せない。
怖くて逃げたい気持ちと、ソレが何か突き止めたい好奇心とが葛藤して、俺はしばらく動けずにいた。
が、車に向かってダッシュで逃げたKの背中に「おい!懐中電灯!」と叫んだ次の瞬間、近づいてくるソレが、何かブツブツ言ってるのが分かった。
...なに?喋ってる?
全身に鳥肌が立ち冷たい汗が噴き出す。
ソレのブツブツが少しハッキリしてくる距離まで来てやっと、俺はヤバい、逃げなきゃと思って走った。
Kは、もう運転席に座ってエンジンをかけていた。
俺も慌てて助手席に乗り込んだ。
車は急発進し、その場を離れた。
2人とも無言で車を走らせ山を降りた。
街へ戻ってきて、すぐに解散するのも怖かったのでファミレスに入った。
ドリンクバーを頼んで一息ついた所で俺は「さっきの...なんだったんだろな...Kも見た...よな?」と恐る恐るKに声をかけたが、Kはまだ油汗をかき震えが治まらず返事は無かった。
それ以上何も言えなかった。
そのまま朝まで黙ったまま2人でファミレスのソファに座っていたが、外も明るくなってきたのでKを家へ送った。
車を降りて玄関に入って行くKの後ろ姿を見送りながら、俺はさっきの人影のブツブツを思い出していた。
そいつは、
「こっち来い...こっちぃ...K...来いよぉ...K...」
Kの名前を呼んでいた。
あれから何度連絡しても、Kからの返事はなかった。
そのまま俺らは疎遠になった。
Kに何があったのだろうか。