今も昔も、私は『霊感』のようなものとは縁遠く、何かが見えたり何かを感じたりすることは全くないのですが、20年程前、私が大学生の頃に1度だけ説明がつかない体験をしました。
その日、私はいつもより少し早く大学から帰宅し、アルバイトに行くまでには中途半端な時間が空いてしまいました。
テレビでも観て時間を潰すつもりだったので、ベッドでゴロゴロしながらテレビを眺めていました。
しかし、数分の内に急に眠気に襲われたので、テレビを消してウトウトと眠りについてしまいました。
どのくらいの時間寝たでしょうか?
「ヤバい!遅刻する!」と思い、パッと目を開きました。
しかし、何か凄く嫌な感じがしたので、寝たまま目を動かして部屋の中を見渡しました。
霊感など縁遠い私は、ひとり暮らしの私の部屋に誰かが侵入したのではないかと思い、起きていることを気付かれないように目だけを動かして部屋の色々な箇所をチェックしました。
タンスは開けっ放しになっていない・・・。
テレビも消えたまま・・・。
本棚もそのまま・・・。
テーブルの上のペットボトルのお茶も動いていない・・・。
狭いワンルームなので、万が一誰かが侵入していれば、何かが動いていたり倒れていたり、ちょっとした変化があるハズです。
そして「考えすぎか」と思い起き上がろうとした時、私は気付きました。
目しか動かないことに・・・。
指を動かそうとしましたが指が動かず、声を出そうとしましたが声も出ません。
嫌な感じがどんどん心の中で大きくなっていきます。
「これがウワサの金縛りか」
「確か脳は目覚めているけど、体が目覚めていない、ってやつだよな」
「体が覚醒するにつれて徐々に動くハズ」
自分で自分を説得するように心の中で唱えましたが、嫌な感じはますます大きくなっています。
すると、さっきまで見えなかったのか、気付かなかったのか、和服を着た女性が足元に立っています。
目だけしか動かないので顔は見えません。
「絶対に違う」
「私には霊感なんてない」
「これは夢なんだ!」
心の中でそう叫びながら、もう一度目に見えるものを確認していきます。
夢なら現実ではあり得ない何かがあるハズ。
例えば本棚に並んでいる本を全て正確に覚えているわけではないので、持ってもいない本が本棚に並んでいたりすればこれが夢だと確信できるハズです。
必死に目を動かし本棚を見つめます。
しかし、どの段を見ても持っていないハズの本など1冊も並んでいません。
並んでいる順番も正しいように思えます。
そして、目を足元に戻すと、和服を着た女性はゆっくりゆっくりと私に近づいてきています。
「ヤバい!」
強烈な寒気と本能的な恐怖を感じ、何とか体を動かそうと踏ん張りましたが、思うように体が動きません。
少しづつ女が近付いてきます・・・。
「ぐをわーーー!」
うめき声のような叫びをあげると、手が動きました。
女の首元めがけて手を伸ばし、女を制止しようとすると、いつの間にか女は窓辺のカーテンの前に立っていました。
そして、私を一瞥すると、カーテンの向こうへと消えていってしまいました。
混乱した頭で私はすぐに本棚を確認しました。
そこには先程確認した通りに本が並んでいます。
本のタイトルも、並んでいる順番も1冊たりと相違ありません。
先程、目だけを動かして確認した通りです。
この経験は一体、何だったのでしょうか・・・。
今でも真相は全く分かりませんが、それ以来同じようなことは二度と起きていないので確かめようもありません。