裏に貼ってあるお札

カテゴリー「心霊・幽霊」

昔、大学受験で東京に出た時に泊まったホテルでの話です。

シーズン少し前になると受験生向けの比較的安いホテルはほとんど埋ってしまうんですが、僕はそれに出遅れて、結局かなり高い部類のホテルしか取る事が出来ませんでした。

そのホテルは駅にも近いし、ターミナル駅への接続も簡単という立地条件だったしホテル自体も高いだけあって、非常に綺麗で好印象だったんですが、泊まる事になった部屋に少しだけ『嫌だな』、と思う点がありました。

ホテルの部屋には大抵の場合、ちょっとした絵が掛けてあるものですけど、怖い話なんかで、『自殺者が出た部屋の絵の裏にはお札やお守りが貼ってある』なんて言いますよね。

僕もその話は知っていたので、部屋に絵が掛けてあるのを見て、ちょっと裏を見てやろうという気に
なったんです。

するとですね、外れないんです。
鋲か何かが打ってあるのか、絵はきちんと多少傾けた形で壁に固定されていてビクともしないんです。
イタズラ防止なんですかね?
そのホテルはどちらかというとかなり上のビジネス客向けだったんですが・・・。

1人の時というのは、やっぱり不安な方に気持ちが傾くというのは本当で、しっかり固定されていると「裏に貼ってあるお札とかを見られないようにする為なんじゃないか?」とか想像してしまい、どうにも裏を確認しないといけないような気になってきます。

幸い、絵が少し前倒しの形で固定されていたので、覗き込むようにすれば裏は何とか見る事が出来ました。
そうしたら、影になってて暗かったので、イマイチはっきりと確認する事は出来なかったのですが、どうも絵の裏側の中心辺りが出っ張っているんです。
何かが貼ってある様な感じに・・・。

この時点でかなり怖くなったんですけど、そんな事で部屋を変えてくれと言うのも気恥ずかしいし、受験に向けて最後の追い込みもしなきゃいけないという事で気にしない事にして、4日間の逗留(とうりゅう)の内、3日が過ぎました。

そして今日泊まったら明日は帰宅という3日目の夜のことです。
最初こそ不気味だったものの、蓋を開けてみれば何にも起きないし、サービスはいたれりつくせりで
不安なんかどこかに消えていて、その時も夜中の1時過ぎに目が覚めるまでは、ぐっすりと寝ていました。

目が覚めてしまうと、逆に目が冴えてしまってなかなか寝付けず、2、30分位、悶々としてました。
するとその内、変な音が聞こえる事に気付いたんです。

何と言うか、人の声のような感じかな?と最初思って、そうすると、今まで忘れていた絵の裏の事が一気に思い出されてしまって、「これはマズイ、早く寝よう」と努力するんですけど思えば思うほど、目は冴えてしまって、耳はその声に注意するようになってしまいます。

そういう状態が数分続いて、人の声のようなものとしか聞こえなかったものが段々と女性の声、しかもすすり泣くような声だって事が分かってきました。

そうなると恐怖のドン底です。
今すぐ、フロントに電話をかけて部屋を変えてもらいたい。
けど怖くて布団から抜け出すのも嫌。
声はどんどんとはっきり聞こえるようになってくる。
終いには声が聞こえてくる方向も分かるようになって来ました。
絵が掛けてある壁の方から聞こえてきていたのです。
ベッドはその壁に接して置かれていました。
方向が分かるようになってくると、音量もますます大きく、生々しくなっていきます。
本気で漏らしそうになってきたんですが、その内、ある事に気付きました。

すすり泣きといっても、どこか嬉しそうな泣き声なんですよね。
しかも妙に艶っぽい。
これはひょっとすると・・・と思って、残っていた勇気を振り絞って壁に耳をくっつけてみました。

案の定、隣で激しいSEXが行われていました。
女性の方の声しか聞こえませんが、泣きっぱなしです。
全く、他人の迷惑も顧みず・・・という奴です。

今なら最後まで盗み聞きしてやる、と思ったかもしれませんが、その時は怖がっていた自分へのアホらしさと、安堵感からすぐに眠ってしまいました。

そして明けて最終日の朝、チェックアウトをする際に何かと世話をしてくれたフロントさんと世間話をしていて「そういえば、部屋に掛けてあった絵。固定されてて裏に何か貼ってあるような感じでしたけど何があるんですか?」と尋ねてみたんです。

すると、それまで笑顔で話していたフロントさんの表情が凍り付きました。
隣にいて、チェックアウトの作業をしていた同僚の人も同様でした。

そして周りを他に誰も聞いていないかどうかを確認するように見回した後血相を変えて「当ホテルには幽霊騒ぎなんて一切ありません。お客様に取っては話のタネになるかも知れませんが妙な事を話されては当ホテルの信用に関わります。冗談でもこんな変な事を言わないで下さい」と言うような事をまくし立て、チェックアウトの作業が終わり次第、追い出されるような形でホテルから出されてしまいました。

もしかすると、僕は隣のアベックに助けられたのかも知れないと今では思っています。

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