歩道橋が設置された経緯

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

僕の実家はけっこうな田舎なんですが、そこにチョット奇妙な場所がありまして。
今回はそのことをお話したいと思います。

その奇妙な場所とは小学校です。
この小学校、今では少子化の影響もあってか、廃校になってしまっています。
だだっ広い田んぼの真ん中にぽつんと建っていて、他に建物はない。
かなり離れた場所に住宅地があり、そこまで真っ直ぐな道が延々と続いている・・・そんな場所なんです。

何が奇妙かというと、小学校から出てちょっと進んだあたりに歩道橋が設置してあります。
道は小学校までしかなく、その先にはなにもありません。
つまり、車の通りなんてほとんどないんです。

ちょっと話しは前後しますが、この小学校には年に一回、演劇の発表会がありまして、各クラスがそれぞれ演劇をやり、保護者に観てもらう・・・といった行事です。
2年生のある女の子・・・仮にAちゃんとしておきましょう。
彼女はその行事をとてもに楽しみにしていました。

というのも、Aちゃんはその劇の中で『女王様』の役をもらったからです。
主役ではないものの、登場回数やセリフが多く、非常に重要な役でした。
Aちゃんは常に台本を持ち歩き、何度も読み返してセリフを覚えようと努力をしていました。

その日もAちゃんは台本を読みながら下校していました。
すると突然、Aちゃんが歩いていた歩道に向かって一台の車が突っ込んで来たのです。
Aちゃんは避ける間もなく、即死だったそうです。
手にはしっかりと台本を握ったままでした・・・。

たとえ車の方が悪かったにせよ学校側としても、何らかの対策をとらなければならなくなりました。
苦肉の策として事故があった場所に歩道橋を設置するということで落ち着いたそうです。

つまり、これが件の歩道橋が設置された経緯でした。

話を戻して、廃校がある場所は地元ではちょっとした心霊スポットになっていました。
幽霊を見たなんて話しは一度も聞きませんでしたが、田んぼの中にぽつんと建っている廃校、車の通らない道に不自然に設置された歩道橋・・・。
恐怖を感じるには充分な場所だっと思います。

僕も数年前、彼女と一緒にその歩道橋を見に行ったことがあるんです。
夜中の1時くらいだったと思います。
街灯もない真っ暗な道を車でしばらく走っていると、件の歩道橋が見えてきました。
僕達は適当な場所に車を止めて、外に出てみることにしました。

外は真っ暗で人気なんて全くありません。
僕は持参した懐中電灯を点けると光を歩道橋の方に向けました。
話しに聞いたとおり、確かに歩道橋は不自然な場所に設置されています。
その歩道橋越しに見える廃校も、いかにもという雰囲気で僕は夏だというのに背筋に寒いものを感じていました。

さすがに廃校に入る勇気はありませんでした。
彼女と二人で歩道橋に登ろうということになりました。
階段まで近づいて行くと、その脇に古ぼけた看板が立っていることに気付きました。

「この歩道橋は安全を守る為に造られました」

看板には大きくそう書かれており、その下にこの歩道橋が設置された経緯が書かれていました。

何気なくその看板を眺めていた僕は、あることに気付き、驚きました。

「安」という字のうかんむりと、「全」という字の入の部分が薄くなって消えかかっていたんです。
つまりその部分を消して読むと・・・。

「この歩道橋は女王を守る為に造られました」

偶然だと思いますが、何か切ないものを感じました・・・。

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