小学校高学年のときの自宅での体験。
家族が揃っていたので日曜日のことだったと思います。
夕方の4時ごろになって、母親が美容院に行くために家を出て行きました。
「一時間ぐらいで帰ってくるからね」と言ってたのに、夜の7時を回っても音沙汰がありません。
母は、一人で外出するとまめに連絡を入れるほうです。
私は不安になりましたが、「美容院が混んでるんだろう」と、父は気にもせずにお風呂に入ってしまいました。
隣にはテレビに夢中になっているふりをしながらも、母の帰りを心待ちにしている様子の妹がいます。
「もうすぐ帰ってくるよ、きっと。」
妹が玄関のほうを見るたびに、私はそう言って慰めていました。
7時を20分ほど回ったころだと思います。
立てつけの悪い玄関の引き戸が大きな音を立てて開きました。
妹が嬉しそうに、走って玄関まで迎えに出ます。
でも、戻ってきたときは一人でした。
「お母さん、いなかった。」意気消沈というよりは不思議でしょうがないといった表情に、私も首を傾げます。
「じゃあ、誰が来たの?。」すると、妹は、「誰も」と。
そして「玄関、たしかに開いたよね?」と念を押すのです。
戸がぴったりと閉じたままになっているのを再確認して、「気のせいだったんだよ」と妹と自分に言いくるめ、テレビの前に戻りました。
バラエティ番組の笑い声に、妹の顔がほころんだのを見てほっとしたのもつかの間、またきしむ音を立てて玄関の戸が開きました。
すると同時に、今度は年配の女性のぼそぼそと喋る声が。
「新聞屋さんかな。」
当時、集金などは回収だったため、留守がちの我が家には、夜にそういう人が回ってくることが多かったのです。
妹は無関心を決め込んでテレビを見続けています。
私も、何か声をかけるだろうと思って、腰を上げませんでした。
そうこうするうちに、年配女性の声がもう一人増えました。
先に来たおばさんと何か喋っています。
「久しぶりねぇ」
「何年になる?」なんて台詞が聞こえてきます。
私はだんだんと腹が立ってきました。
いつまでたっても用件に入らない「声」は、最終的には玄関中に溢れていました。
「あんな連中がいるからお母さん帰ってこられないんだよ!」苛立ちまぎれに怒鳴ると声はぴたっと止まりました。
母が帰ってきたのは、それから15分ほど後のこと。
なんでも、緊急なお客さんが立て続けに入ったために、順番を後回しにされていたらしいのです。
電話をしようにも、店の中からは体裁が悪くてできなかったよう。
私と妹は、今晩の出来事を母に話しませんでした。
無事に帰ってきた母に変な不安を与えたくなかったので。
遅い晩ご飯の準備を手伝い、家族で食卓に着いたとき、それまで黙っていた父が口を開きました。
「さっき、風呂に入ってたときに、妙に気持ちの悪いことがあってなあ・・・。風呂の窓の外で大勢の話し声がするんだ・・・」
母も、そして父も私たち姉妹も今日まで特に霊障らしいものもなく元気にやっております。