4年前、友人と、神奈川県にある山に登りに行ったことがあった。
もちろん心霊目的である。
自分を含めて3人、男ばかりで山に登った。
友人を、仮に鈴木と佐藤としておこう。
鈴木はチャックのYシャツ姿でリュックを背負い、首から一眼レフのカメラをかけた、真面目系の眼鏡君である。
佐藤は茶髪で黒いTシャツを着ており、ほぼ手ぶら。
チャラ男とまではいかないが、鈴木とは対照的な感じの男である。
鈴木が、地図を見たり写真を撮ったりしながらゆっくりと歩くのに対し、佐藤は行き先も何も分からないくせに、どんどん先に進もうとする。
しかも「後ろから誰かついてくるぞ、おいっ!なんだあれ!?」などと悪ふざけをして、俺たちをビビらせてくる。
ただ、佐藤は根っから悪い奴ではないし、そうこう言って盛り上げてくれる楽しい男なので、俺も鈴木も満更ではなかった。
目的地である心霊スポットは、山の頂上を目指す登山道を途中まで歩き、途中から、今はもう使われていない廃道を行き止まりまで進むと、突き当たりにあるという水道橋の跡である。
登ってみると思ったより結構薄暗い山で、山というより鬱蒼とした森という感じであった。
傾斜もところどころ急なので、かなり不安に思って引き返そうともしたが、地図でみれば大した距離ではなさそうだし、時間もまだ昼だったのでまぁ大丈夫だろ、頑張って見るだけ見てみよう、ということになった。
だいぶ歩いた感じがしたのだが、廃道に入るための目印となる分岐点が見つからない。
登山道を行ったり来たり、登ったり降りたりしながら、それらしきものを探すのだが、今はもう使われていない道であるというだけあって、どれが道なのか確証を持てない感じでいた。
俺と鈴木が地図を覗き込んでいると、佐藤が「ちょっとあそこにいる人に聞いてくる」といった。
登山客なんかに聞いて分かるのかな、と思ったが、やがて「どうもありがとうございます」という声がして、佐藤が「こっちだってさ。行こうぜ!」と、足早に俺たちを先導した。
「おいおい、そんなに急ぐなよ」と鈴木が後を追ったので、俺もそれに続くことにした。
佐藤は、廃道を進むというより、山の斜面を滑り落ちるかのようにしてどんどん進んでいく。
「おいおい・・・これは人が歩くようなものじゃないぞ」と言うと、「でもここが一番近道らしいぞ。もともとそういう場所に行くんだしさあ」などと言って返し、なおも休まず進み続ける。
「結構迷っちゃったし、佐藤の奴、シビレを切らしたかな」と、少し申し訳なくも思ったので、俺と鈴木は我慢して佐藤にならって山の斜面を滑り落ちるように進んでいった。
佐藤:「おお!すげ~ぞここ!」
佐藤の足が止まったかと思うと、山から突き出したかのような、広くて明るい場所に出た。
断崖絶壁とまでは行かないが、かなり高さを感じさせるように、山の下が一望できる場所である。
佐藤は嬉しそうにはしゃいで、また悪ふざけで鈴木を揺さぶって下に落とすマネなどをした。
佐藤:「ねえねえ、ここ見てよ」
俺は、ふと、その場所から見下ろしたところに、水道橋の跡らしきものを見つけた。
「ああ、あそこが水道橋なんだ」と鈴木がいい、佐藤にも見せてやろうと思って、俺と鈴木が同時に佐藤の方を向いた。
すると、佐藤の顔からみるみる血の気が引いていき、顔が真っ青になっていくのが分かった。
佐藤は鳥肌を立て、目を見開きながら放心状態になって、棒立ちのまま水道橋の方向に一直線にスタスタと歩き始めた。
俺はまた、佐藤が悪ふざけし始めたと思った。
鈴木:「おいおい!危ない!」
鈴木が静止するが、どうも様子がおかしい。
日頃ならこの辺で悪ふざけをやめそうなものを、佐藤は真顔で真っ青な顔のまま、吸い込まれて行くかのように水道橋の方に向かっていく。
鈴木:「やめろやめろ!マジで危ないって!」
鈴木:「おい!佐藤!やめろ!」
俺と鈴木が必死になって佐藤にしがみついて止めようとすると、佐藤はそのまま顔面からモロ地面に手を着かずに倒れこみ、泡を吹いてしまった。
その後、俺と鈴木は、取るものもとりあえず携帯電話で連絡をし、近くの林道まで救急車に来てもらった。
病院でしばらく手当てを受けて休んだ後、佐藤は両親に車で迎えにきてもらって、家まで帰っていった。
その後回復した佐藤から話を聞くと、俺たちが廃道に入るための目印を探していたとき、山の斜面から工事作業員風の男たちが列をなして這い上がってきたため、「ヤバイ!」と思って、俺たちにそのことを知らせようとしたところまでしか覚えていないという。
もちろん、そんな男たちの姿など、俺と鈴木には見えなかったのだが・・・。