残業のため終電で帰ってきた私は、バスがもう終わっていたため、タクシーに乗って帰ろうとしました。
タクシー乗り場にてしばし待つこと数分。
すぐに自分の乗る番が来て、私はタクシーに乗り込むと家の近くのコンビニを指示しました。
残業でかなりイライラしていたので、私は相当に不機嫌でした。
なので仏頂面で窓の外の景色をひたすら眺めていました。
ここまではなんと言うことのない普通の話です。
しかし、普段からタクシーに頻繁に乗る私は、今日に限って何故か運転手の真後ろに座りました。
普通一人でタクシーに乗るならば、乗ってすぐの助手席の後ろに座りますよね?
でも、自分でも解らないのですが、今日に限ってわざわざ運転手の真後ろまで移動したんです。
そしてその時はその不思議な行動を疑問にも思いませんでした。
数分ほどタクシーに揺られていると、タクシーは何故か目的地までの道を外れて見当違いの方へ曲がります。
私は慌てて運転手に言いました。
「ちょっとちょっと。何でそこで曲がるんです?そっちじゃないでしょう」
しかし運転手は不思議そうに聞き返してきます。
「え?だってお連れさんの家のほうが近いですし、先にそっちに行かれるでしょう?」
一瞬運転手が何を言っているのか理解できませんでした。
「お連れさんて、何のことです?」
するとタクシーは止まり、運転手が後ろを振り向きました。
「お客・・・」
そう言うと運転手の顔が明らかに強張りました。
薄暗い車内の中で明らかに表情が動揺しています。
「あ、あれ?もう一人女性の方と一緒でしたよね?」
もちろん車内には私と運転手の二人しかいません。
女性など乗っているわけがないのです。
「何言っているんですか。私は初めから一人でしたよ!ちょっとふざけないでくださいよ!」
残業でイライラしていた私はかなりきつく運転手に言いました。
「だってお客さんと一緒に女の人が一緒に乗って。それでお客さんは◯◯までで、女の人は××までと確かに・・・」
運転手はおろおろしながら私に弁解します。
そして突然こう言いました。
「お客さん料金要らないからここで降りてください!」
いきなりの事で呆気に取られましたが、私はその言葉にひどく腹を立てました。
「何を言い出すんですか。訳の分からないことを言ったり、途中で降りろだの。何なんですか!?」
「いいから!お願いですから降りてください!お金は要りませんから・・・」
運転手の懇願に立腹しながらも、こんなおかしな運転手のタクシーになんてこれ以上乗っていられないと私はそこで降りました。
そしてそこから歩いて帰ることにしました。
歩きながら私は、ふとあることに気づきました。
運転手が言っていた××という場所。
確か昔に帰宅途中のOLがストーカーに襲われて亡くなったという事件が起こった場所でした。
それを思い出した私は、とたんに怖くなって家まで走って帰りました。
こんな怖い思いをしたのは生まれて初めてです。
今日も残業で仕事が遅くなるだろう事がわかっていたので、仮病を使って会社を休みました。
今日ばかりはタクシーには乗りたくなかったですから・・・。