『鋏姥』

僕が自分で体験した話。

今月末で辞めてしまうが、僕は山間部の朝刊配達をしている。
配達は深夜から朝まで。
そんな時間帯にちょっと恐い体験をしたので書いておく。
あれは始めて最初の冬だった。

少し配達にも慣れてきた頃、拡張員が新刊をとってきた。
新刊が入ると、配達する人間は深夜地図を見ながら家、そしてポストを探す。(ポストが無い家や見つかり難い家もある)

新刊の家は面倒くさい所にあった。
普通の車道で行くと、森の中にある道を遠回りしながら入って行かないといけない。
道も細くて、バイクでも滑落の危険性がある。
そこで、その家の少し上にバイクを停めて、畦道を歩いて降りて行く事にした。
そうすればポストの下に出る。

ポストは家から少し離れた所にあった。
その日は場所だけ確認して、翌日から配達する事にした。

翌日、坂になってる道を降る。

・・・ワン・・・ワン!

何匹か、犬の鳴き声がした。

昨日はいなかったので変だなと思ったが、あまり気にせずポストへ小走りで向かった。
すると家の玄関先だけ明るくなってて(朝刊配達とはいえまだ外は真っ暗)、婆さんが一人立っていた。

僕は、『あっ!新聞待ってたのかな?』と思って、玄関まで行って婆さんに届けようとした。

しかし・・・。

婆さん:「とまれ!何だおまえは!」

僕:「新聞配達です;」

僕は毎◯新聞のジャンパーと首から身分証を下げていたので、それを見せた。

婆さん:「そんなもん、信じられるかああああ!!!」

呼応するように犬が歯を剥き出して吠える!

婆さんは庭いじりに使う様な大鋏をジョキジョキこちらに向けてきた!

でも僕はその時は冷静だった。
この人、痴呆でも始まってるのかな?全然話にならない。
鋏むけてきても、下腹部を前蹴りでいけば突き放せるな・・・でもおばあさんだし、それは無しだなとか呑気に考えてた。

僕は「じゃあここに置いておきますね」と、新聞をその場に置いて踵を返した。
小走りだったが少し後ろを振り向くと、犬の鎖を離して僕にけしかける婆さんの姿があった。

おいおい!と思うのと同時くらいに、「$△▲○◎∈あああ◎◎あああ!」とかワケわからない言葉を叫びながら、ハサミをジョキジョキしながら婆さんがダッシュしてきた。

僕は全開で坂道を駆け上がり、停めてあったバイクに飛び乗った!
新聞配達のカブはキック式でエンジンをかけるんだが、焦ってるせいかなかなかかからない!
犬の頭の先が見えたあたりでエンジンがかかった。
そのままフルスロットルで、今度は振り返らずに逃げた。

配達後、新聞屋の社長に今朝の事を話して、それとなく連絡を入れてもらう事にした。(場所の確認や集金の引き落としとかをお願いする口実の電話)

しかし電話は使われてない番号で、昼間に現地に確認に行った社長は「空き家があるだけだった」と言っていた。

拡張員に社長が問いただした。
ノルマ消化の為に、空き家を新刊として拡張したように見せかける架空拡張だった。

バカな。
あの婆さんは?犬は?

拡張員には膝蹴りをかましたくなってイラっとしたが、直ぐにあの婆さんの顔を思い出して背筋が凍った。

それからその場所は、遠回りでも近づかない様にした。
新聞配達終了まで後数日間・・・またあの鋏婆さんに会わない事を祈る。

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