小さい頃の話。
多分、小学校に入って間もないくらいの頃だったと思う。
四捨五入すると30年近く前の話。
年子の妹は幼稚園児で、俺は小学校に入ってからもよく妹とつるんで遊んでいた。
妹とはよくある女の子の遊び(おままごととか)以外にも、わりとアグレッシブに外で遊ぶことも多かった。
で、ここから話の本題に入るんだけど、あるとき、家の近くに住んでいるお爺さんお婆さんの家に招かれてお茶とかお菓子とかご馳走になることになったんだ。
細かい話の経緯はあんまり覚えていないんだけど、全く知らない人のお家に上がってお菓子を食べてる記憶しかない。
誰かれかまわず挨拶してたからかな?
そのお爺さんはとんでもないエロ爺さんで、小さい俺や妹を「可愛い可愛い」と言いながらペタペタ触ってた。
お婆さんはお婆さんで、嫌だねこの爺さんはとんだエロ爺さんだよ、とか言いながらお茶を淹れてくれたりした。
両親に話すと最初は少し警戒していたようだったが、やがて直接顔見知りになったようで、遊びに行くときには前もって用意してくれたお土産を持っていくこともあった。
不思議なのは、今から思い出してもお爺さんが持っているはずのない代物を次々に見せてくれたことだ。
今なら不思議でもなんでもない物なんだろうけれど、お爺さんはスマホのようなもの?を持っていた。
写真や音楽が中に入っていて、それを見せてくれたり、聞かせてくれたりするわけだ。
手で巻き上げるタイプの、子供にとってはとても重たいカメラが最先端だと言われていた時代。
今から考えると、針金みたいなアンテナがテレビの上に付いている時代に、そんな物があるわけない。
それにゲームも中に入っていて、白黒ではない鮮やかな色がついたゲームに俺は夢中になった。
そういうものでひとしきり遊んだ後、俺はお爺さんに教えてもらって将棋とかトランプで遊んだりもした。
妹は妹で、小さなおままごとのキッチンおもちゃ?みたいなものでお婆さんと遊んでいた。
よく、マジックテープの付いた野菜をサクッと切ったり、プラスチックの鍋とかに入れてツマミを回すとコトコト音を立てた後、チンッて音を立てるようなおもちゃがあるだろう?
あれが少し大きくて本当に火が点いて、本物の料理が出来上がるようなものを思い浮かべてほしい。
包丁はプラスチックみたいな小さいやつなんだが、別に手を切る心配はないからやってみなさい、とお婆さんは妹に教えていたようだ、ちなみに野菜は本物なんだが普通にサクサク切れる。
あとはプロペラの付いた小さなブリキ製の飛行機とかがあって、わりと重みがあるのに空を飛ぶ。
小さな頃は全く疑問に思わなかったけど、今思い出してみるとありえない物ばかりがあった。
「お父さんお母さんや友達には教えてはいけないよ」とお爺さんは冗談めかして言っていた。
その内、お爺さんは少しずつ元気がなくなっていって、あまり動かないようになっていった。
それでもやっぱり少しひねくれた爺さんだったので、お婆さんは相変わらず困ったように笑っていた。
小学校3年の頃、引越しで転校することになったことを話したとき、お爺さんは「これ(スマホみたいな物)を思い出に持っていくかい?」と聞かれて、「また来るから必要ない」と断ったことははっきり覚えている。
それから何度か遊びに行ったことは覚えてるけれど、その後どうなったかはあまり思い出せない。
何か変なものを見たとか、幽霊っぽいのと手をつないでトイレに行ったりだとか、そういった子供の頃の思い出はいくつかあるんだけど、両親も兄妹も覚えている不思議な話という意味では真っ先にこれを思い出す。