祖母と最後の別れ

私のおぼろげな記憶をひたすら書き出しているだけですが、大人の印象操作もあって記憶から混濁している部分が有ります。
フェイク無しですが、矛盾点は記憶違い等から来るものなので、真相は解りません。

実は私は小学校に入る直前の記憶がすっぽり抜けている、ことになっている。
私の母親は慢性人手不足の大病院の外科で働いていた。

当時は産休育休なんて機能していなくて(取りたいなら辞めろという風潮)、幼い私は祖母に預けられ、母親は産後退院するとすぐに職場に復帰して働いてた。
父が「子供は自分の食い扶持は持って生まれてくる」という腐った考えから、通帳とカード握った父が出産に関わる費用を一円も出してくれなかった事実に母親の選択肢はなかった。

そうして私は祖母の家で長らく過ごすことになる。
祖母の家はあれだけ過ごしたのに、今ではほとんど抜け落ちている。
玄関の薄っぺらいアルミ扉をひらけると、左手に小さなキッチン、右手にトイレと私が身長を記録した柱がある。
その向こう側に大人四人が入ればいっぱいになるリビング、隣に窓のない小さな寝室、その隣に続きで祖母の仕事場があって、足踏みミシンと大量のボビンレースが置いてある。

どの部屋も低身長の私では電気がつけられず、祖母の寝室は常に暗かった記憶しかない。
私はキッチンの赤い冷蔵庫の上に置いてある、コーヒーの空き瓶に入れられた角砂糖を食べるのが好きだったし、毎朝食パンをオーブンレンジで焼いて食べる習慣があった。

祖母の寝室は仕事柄、幼い私には危険なものがあったので、私はリビングに寝かされていた。
朝起きると先に起きて台所にいる祖母が食パンをひと切れだしてくれる。
それをオーブンレンジに入れなにか操作をすると、背面にあるM型のものが倒れてきてパンにかぶさるようになり、それが赤くなってパンが焼き上がる。

焼き上がったパンにイチゴジャムを塗って食べる。
それに大きな缶に入った粉を溶かして作るレモネードをあわせて飲むのが私の朝食。
大きな缶は高いところにあって、祖母が毎日取ってくれていた。

これが私の中に残る色濃く褪せない祖母との記憶。

ある朝私が目を覚ますと、台所に祖母はいなかった。
寝ぼけた目をこすりながら探すと、祖母はまだ布団の中にいた。
祖母は声をかけても譲っても眠ったままだった。

私は自分で食パンを出し、オーブンレンジに入れた。
でも操作がわからず、出来上がったのはあったまってふにゃった食パン。
私はそこにイチゴジャムを塗った。

レモネード缶も届かなくてキッチン台によじ登ったが、缶を落として中身をぶちまけてしまった。

私は水でパンを流し込んだ。
家の隣にあるブランコを飽きるまでこいでいたが、降りるときにすっ転んで膝をかなり擦りむいた。

夜になっても祖母は起きなかった。
私は角砂糖を一つ口にいれて、いつも通り8時には眠りについた。

翌日も祖母は起きてこなかった。
朝方母親から電話があったので、おばあちゃんがお寝坊してるけど元気だよと伝えて切った。

その日もパンはふにゃふにゃで、水で流し込んだ。

その日は膝が痛くて、落書き帳にバラの絵を描いた。
テレビで描き方を教える番組があったから、それを参考に朝から夜までずっと描き続けた。
その日の夜も角砂糖ひとつ口に入れて寝た。

その翌日、最後の一枚の食パンを今度はそのまま食べた。
空腹が紛れなくて、イチゴジャムをそれだけで貪った。
ベタベタになった手を布巾でふいたら、前にこぼしたレモネードの粉のせいで余計ベタベタになった。

布巾は雑菌のせいか異臭を放っていた。
リビングは布巾の雑菌でとても臭かった。

膝の傷はぐじゅぐじゅになって白くなっていた。
一日空腹をごまかすために、角砂糖をなめながらテレビをぼーっと見ていた。

その翌日、祖母を起こしに行くと、祖母がおねしょをしていたことに気づいた。
私は見てはいけないものを見た気がして、私の布団を祖母にかけた。
祖母に怒られる気がして、私は一日外を歩き回っていた。
空腹は限界にきていた。

夕方になると野犬が出るので、犬の遠吠えを聞いて慌てて帰った。
その翌日、目を覚ました私は外に出て歩き続け、その先で見つけた人様の畑に入った。
柑橘類やビニールハウスのイチゴを食べまくっていた、何かに憑りつかれるように・・・。

夕方頃、畑の持ち主が軽トラでやってきてとっ捕まった。
数日風呂に入っていないボロボロの身なり、変色した膝の傷、かいだことのない不快な臭い。

その後はめまぐるしく動いたので記憶がかなり途切れている。
軽トラに乗ったと思ったら救急車に乗せられ、大きな車に乗ったと思ったらパトカーに乗っていたり・・・。

何故か車内のことばかりをよく覚えている。

その後私は黒い服を着て、祖母と最後の別れをしていた。
死というものが何なのか、その時最後まで解らないし、私はまだ祖母が死んだという実感が沸かないままでいる。

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