俺ん家は大した徳も無いちっこい寺なんだが、それでも近所の信心深いお年寄り達の憩いの場となってた。
特に1人暮らしのMさんは、毎朝境内のゴミ拾いをしてくれる優しいお婆ちゃんだった。
スーパーのゴミ袋を一枚持って、チョコチョコとゴミを拾う姿を今でも覚えてる。
ある日、住職である親父の持病の腰痛が悪化して正座が辛くなり始めた。
んで、2年前から親父と一緒に檀家周り始めてた兄貴に任せるかって事になったが、兄貴はまだ心構えが出来て無いだの何だの渋って話し合いが進まなかった。
そんなある晩、俺は明け方ふと目が覚めた。
ついでにトイレにでも行くか・・・と階下に降りた時、外からガサガサとビニール袋が鳴る音に気付いた。
風がかき集めた落葉を詰めたビニール袋を鳴らしてるんだろうと思ったが、それにしてはビニール袋の中に手を突っ込んで物を選り分けているような音だった。
不思議と怖さは無かったが、さすがに外に出て確かめる勇気はなく、玄関の磨りガラスを凝視していると兄貴がやって来た。
兄貴:「・・・なんだろうな?」
兄貴もふと目が覚め音に気付いたと言う。
2人で息を潜めて様子を伺っていると、まるで足音の様なものが立ち去って行った。
そのままお互いの部屋に戻ろうとした時、家の電話が一回だけリンと鳴った。
翌朝、学校に行く用意をしているとお袋が、「今朝Mさんが来なかった。心配だから見て来る」と言って、Mさんの家に行った。
やはり、Mさんは台所で亡くなって居た。
明け方のアレはMさんだったのではないか?と思い、兄貴と親父に相談すると、親父は、「そういえば何日か前に、息子に任せて隠居しようと思うとMさんに言った。Mさんはどっちの息子に頼めばいいかわからなかったので、両方呼んだのだろう」と言った。
そして兄貴に、「お前は心構えが無いだの説法が苦手だの言うが、頼りにしてくれる人達の気持ちに応えるのが仕事だ。がんばれ」と励ました。
それから数年たって、今でも説法のたいして上手くない兄貴だが、何とか住職やってます。