田んぼと神社とオジさん

カテゴリー「不思議体験」

長い話なんだけど良いかな?

僕は旅行していた。
詳しい事情は省くが、たまっていた有給を消化するために一週間休みを取った。
車に寝袋や着替えを放り込み、車の中で寝泊まりするような貧乏旅行だ。
出来るだけ安く、出来るだけ遠い所まで行きたいと考えていた僕は、どれだけ安上がりで旅を継続させられるかだけしか考えていなかったんだと思う。
事実、帰って来てから清算したらガソリン代と風呂代(温泉代、ケチりたくなかった)くらいしか使っていなかった。
まぁ、そんな旅行だ。

男1人の気ままな旅だ。
それで十分に楽しめた。

さて、この出来事は山陰地方で起こる。
場所の特定はマズいので詳しく書く事はしないが、まぁ、山陰地方のある山奥での話だ。

僕はその日も車で走っていた。
高速も使わず、国道も走らず、ただただ山の中を縫うように車を走らせ地元の名物を買ったり食ったり、風呂に入ったり写真を撮ったりしていた。
その日も車で走りながら突然気になったものを写真に撮っていた。

午後3時頃。
僕は奇妙な風景を車内から見つける。
簡単に言えば田んぼの中にポツンとある神社なのだが、まるでその神社のために田んぼを作ったかのような、「配列正しい感じ」がその田んぼからしたのだ。

水流がある場所に、石を置く。
そうすると、水流は石を避けて流れて行き、石の終わりでまた合流する。
そんな流れのある風景が、田んぼと神社で構成されていた。
僕は車を路肩に停め、カメラを持って神社に近づいていった。
僕には「原風景」と言う気の利いた物がない。
信心深くもないし、「バチ当たり」と言う感覚も薄い。
神社と言う公共の物が土地の信仰にどのように根ざしているのかもよく分からない。

僕は写真を撮っていた。
地元では見た事のないような大きさの女郎蜘蛛とその巣を見つけ、写真を撮ったり、虹色のトカゲを見つけたりと、特に神社には興味がなかった。
僕が感じた「流れ」のある風景は、ファインダー越しに見てもよく分からない物だった。
しかたないと思いながら、それでも少しずつ神社に近づいて行くと、神木らしき大きな木が見えた。
近づけば近づく程、奇妙な木だった。

植物に詳しくないので種類は分からないが、数本の木が絡まって一本の木になっているような、歪なツタが絡まった太い木だった。
ただ、その木の下に地蔵があったのを覚えている。

写真を撮る事に飽いた僕は、神社を見上げた。
この神社の境内に入る事は面倒だと思っていた僕は、今来た細い道を引き返す事にしたのだ。
ちなみに、真夏の話ね。

少し遠くで空き地の真ん中で野焼きをしている地元のオジさんがこちらを見ているのに気付いた。
気になっている人を目で追う。
・・・と言うのでは無く、注視するように両眼でこちらを見ているのだ。
帽子を被ってタオルを首に巻き軍手を二枚重ねていた。
両眼でじっとこちらを見ていた。

僕が写真を撮っていたのは、地元の神聖な場所だったのかも知れないし、まずフラッと軽装でやって来た若い男が信用出来る存在では無い。
と言うような理屈は、痛い程分かる。
しかし特に何かを言うでもなく、近づいて来る訳でもなく、ただ注視されている視線だけを感じた。
距離にして30mくらいだろうか?知らぬフリを決めこめる、そんな距離感だった。
僕は努めて怪しくないフリをしながら普通の速度で歩き、そしてその場所を去っていった。

さてその後僕は数十kmほどを車でまた走って行く。
その中で風呂に入り、飯を食い、今日のキャンプ地(つまりは一晩の路駐が出来る、静かな場所)を地図を見ながら探す事にした。
人様の私有地ではない事や、静かである事、DQNが来ない事、多少の安心感、等を考慮しながら探さねばならない。

その日選んだのはキャンプ場だった。
公営の施設のようで市役所の電話番号が書かれていた。
現地まで車を走らせ下見を済ませた。
キャンプ地を見つけた僕は、その日の夕飯と朝食、その日の晩酌用の酒を買いにまた車を走らせる事にした。

その公園に入るためには一本の橋を渡る必要があり、橋を渡らねばその公園に入る事は出来ない作りになっている。
細くて、古い橋だ。
しかし車一台がなんとか通れる幅の見通しの良い橋だった。

僕が車でその橋を渡っている時、橋の向こう側に人が立っていた。
街灯もなく運転席から見て反対側に立つその人は恐らく、僕の車が橋を渡り切るのを待っているのだろう。
通り過ぎるまで全然気付かなかったのだが、中年の男性で作業服を着て軍手をしていた。
僕は車を走らせながら、その中年男性の事を考えていた。
きっと、あの人は市の管理職員の人だろうと思ったし、きっと、あの施設には常駐の管理部屋みたいな所があるのだろう・・・とも思った。
後でコンビニから帰って来てから、その管理職員さんに挨拶しなければいけないなと思っていた。
公園の入り口の注意書きに「施設を利用される際は、以下の電話番号(市役所・観光部内)に電話して下さい」とあった。
挨拶をしとかないと、酒を飲んでからゴタゴタするのもイヤだったので、とにかくその中年男性の事が気になっていた。
なんと言うか、不思議だったのだと思う。

22時前、僕はコンビニから帰って来た。
真っ暗な駐車場に折りたたみの椅子を広げ、とりあえず飯を食った。
他の客は居ないようだった。
「酒を飲む前に挨拶に行っておかないと、後で面倒になった時に車を動かせないしな」と考え、懐中電灯を片手にキャンプ場の散策に出かけて行った。
舗装のされていない。
真っ暗な木々の間を歩いて行く道のりだ。

小さい、車内用の懐中電灯しか僕には無かった。
そんなに遠くまでは見えない細い懐中電灯を持ち、僕は真っ暗の公園内を10分程歩いていただろう。
管理部屋、管理小屋、管理棟、そう言った類いの物は見つからないのだ。
灯りも無く、あるようにも思えない。
いや、そもそも駐車場には僕の車しか停まっていない。
きっと、もう帰ってしまったんだろう・・・と思った。

大体、あの人が管理職員だと言う確証はないのだ。
歩く音と、虫の鳴く声と、川の流れる音だけが聞こえていた。
生活音は無かった。
しかし、諦める前に「探す努力をした」と言う形だけは残さねばらない。
多少大きな声で「すいませーん!誰かいますか??!」と遠くに言ってみたが、やはり返事はなかった。
返事がない事に安心した僕は駐車場に帰ってビールを飲む事にした。

来た道を歩いて帰って行く。
公園のトイレの横を通り、駐車場のアスファルトに出た。
心細かったライトも、光を木々に邪魔されない事で明るくなったかのようだった。
公園トイレから車まで大体30mくらいだったと思う。
僕は歩いて行き車横に出してある椅子に腰掛けようとして反転した。

体が反転し、同時にライトが、スーーーーッと僕が今まで歩いて来た道を照らして行った。

ついさっき僕が歩いて来たトイレ横の砂利道に、帽子を被ってタオルを首に巻き、軍手を二枚重ねていた「昼間のオジさん」が両眼でじっとこちらを見ていたのだ。
橋ですれ違った、同じ「昼間のオジさん」が何も言わず、音も立てず、ただこちらを観察していた。

そっから先はただひたすら逃げる事だけを考えてホントに家まで逃げ帰って来た。
一晩中高速で走って、実家に着いたのは朝方だったと思う。

後で写真を見てみたら、最初の神社で撮った写真がどうしても気になった。
一枚だけ、森の奥からジーーッとこっちを見てる人が映り込んでた。

あまり怖い話ではないが、とにかく不気味な物を感じたので今でもあの感覚は忘れることができないです。

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