親戚の話。
彼女が勤めている幼稚園では、時々子供たちが妙なことを言い始めるらしい。
着席するように号令すると、「この子の椅子がありませーん」と皆が訴えてくる。
「えっ、どの子の椅子が無いの?」と聞き返すと、「この子の椅子が無いでーす」と言って、子供らは揃って教室の一角を指し示す。
しかし、彼女を含め先生方には、そこに誰の姿も確認できないのだそうだ。
大人と子供が「見える」「見えない」で押し問答をしている内に、その見えない子は教室から出て行くのだという。
「あ、出て行っちゃった」と子供が口に出すと、それからやっと普通に授業が始まるのだとか。
最初は悪戯かとも思っていたのだが、これが頻繁に起こるようになると流石に先生方も気に掛かり、近くのお寺さんに頼んで御祓いをすることにした。
御祓いが終わると、お坊さんは帰る前にこう述べた。
お坊さん:「子供とお爺さんが一人ずついましたよ。まぁ、これで静かになるでしょう。でももし次にこんなことが起こったら、そうですな、その時はミルクと炒り子(鰯煮干し)をお供えしてあげてください」
お坊さんの言う通り、その日以降、見えない子は現れなくなった。
そして一年が過ぎた頃、また子供らが「この子の椅子がありませーん」と口にするようになったという。
お坊さんの言葉を思い出し、ミルクと炒り子をお供えしてみた。
すると、見えない子はぱったり現れなくなったそうだ。
お坊さん:「それからも、大体一年周期でこんなことを繰り返していますよ。でも、なんでミルクと炒り子なんでしょうかね。ミルクが子供の分で、炒り子はお爺さんの分なんですかね」
そう笑いながら彼女はこの話を教えてくれた。
『いやそれって本当は、子供やお爺さんとは違うのじゃないかな』
そんなことを私は考えたが、口に出しては言わなかった。