死のどんぶり飯

大学時代、登山サークルに所属していた。
田舎の大学だったので近場に登れる山がいくつかあり、そこそこの規模のサークルだった。

そのサークルの先輩に尾久(仮名)という、単位を落としまくっても山に登るサークル一の登山馬鹿の男がいた。
尾久は居るだけでうるさいような男だったが、快活な性格からサークル内でも慕うものは多かった。

ある日、尾久に奇妙な一枚の写真を見せられた。
山中、大きな岩の上に、箸(はし)がまっすぐ突き立てられた山盛りのどんぶり飯がぽつんと置いてある。

尾久に「この写真は一体何か?」と問うと、大学から車で30分ほどの場所に有るR山で尾久が一人で登った時に撮った写真だと言う。

詳しく聞くと、尾久の他に登山者はいなかった。
にもかかわらず、そのどんぶり飯はいま炊きたてのように湯気が立っていたと言う。

尾久は「狐か狸にでも化かされたかな?」等と言っていたが、俺は正直、登山馬鹿尾久の自作自演の悪ふざけだと思っていた。

しかし、それ以降尾久がR山に登ると決まって、行く先にどんぶり飯が置かれるようになったそうだ。
これは尾久一人の時ばかりではなく、複数人で登る時でも必ず置かれているという。
このどんぶり飯の話はサークル内で有名になり、尾久はサークル内で「山に愛された馬鹿」とか呼ばれて満更でもなさそうだった。

しかし、尾久は今まで一度もそのどんぶり飯に手を付けていないと言う。
サークル内では尾久にそのどんぶり飯を食わせたらどうなるか?という話で盛り上がり、一度尾久にどんぶり飯を食わせてみようということになった。

その話に尾久も乗り気で、後日、尾久を中心に俺を含め5人でR山に登る事になった。
登山当日、尾久はいつもより上機嫌に見えた。

登山開始から4時間ほど経たったころ先頭の尾久が「見つけた!」と大きな声を上げた。

見ると尾久に見せられた写真の場所に、見事にほっかほかのどんぶり飯が置かれていた。
始めて見る俺はその異様さにビビっていたが、尾久は「おー、実ははじめて見た時から食いたかったんだよねー、いただきまーす!」といいながらどんぶり飯にずかずかと近づき、どんぶり飯を口に運んでいる。

そして「うおおー!何だこれ?超うめー!マジうめー!死ぬほどうめー!」などと叫び一気に平らげてしまった。

残された空のどんぶりにはめしつぶ一つついていなかった。
他のメンバーは、口々に「一応、正露丸用意して有るから腹痛くなったら言えよ?」とか「一口くらい食わせろよ」等と声をかけたが尾久は飯の美味さに感動して殆ど耳に入っていないようだった。

とりあえず目的を達成したので、その日はキャンプもせずにそのまま下山して、大学のサークル室まで戻って酒盛りをした。

しかし、酒を飲むといつも饒舌になる尾久はこの日はほとんど喋らず、心ここにあらずという感じだった。
そしてそのまま俺たちはサークル室で雑魚寝をした。

しかし、翌日朝というか昼過ぎに起きると尾久と尾久の車が見当たらなかった。

4人で申し訳程度に探してみたが見つからない、携帯に連絡しても繋がらない。
結局、俺たち4人が酔いつぶれてる間に家に帰って風呂にでも入っているのだろう・・・ということにしてそのまま解散した。

二日ほど後、尾久が行方不明になったという話を聞いた。
尾久の親御さんによると、あの日から家には戻っておらず車もどこにも見当たらないという。
こうして親御さんの手によって捜索届けが出された。

尾久の車は捜索届けが出された翌日にR山の麓で発見された。
尾久の登山道具も車中に置いてあったという。
R山で尾久の捜索が行われ、サークルのメンバーも協力したが尾久は今でも発見されていない。

その後、俺は大学を卒業したが趣味として登山は続けている。
R山に登るの事も度々あるのだが、その度に山全体にに喧しげな尾久の気配を感じている。

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