金が欲しい鬼嫁

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

以前、窓口の仕事をしていた時の話。

限られた高齢者だけが対象の、少しだけお金がもらえる手続があった。(今もあるかは知らん)
90越えてるお婆さんと、お嫁さんがその手続をしに来た。
お婆さんはホントにもうヨボヨボで杖突いてても足元が危なっかしい。
入口の僅か3段だけの階段で難儀するお婆さん。
膝を庇いながらゆっくり昇るお婆さんを、先に窓口に着いたお嫁さんが急かす。
お嫁さんはヒステリックにわめくだけで介助せず、私の隣の窓口でその手続を始めた。

お嫁さんは、近所の人から「すごく高齢の人だけ、何か特典があるらしい」とだけ聞いて来たらしい。
隣の係員が証明書の提示を求め、それがなければその手続を受ける資格がない旨を伝えると、やっと、窓口の待合いベンチに座って一息ついたばかりのお婆さんに、「本人が来てても証明書がないとダメなんだって!!ホラ!さっさと立って!帰るわよ!!」と、怒鳴って一人で先に出て行ってしまった。

その時、私は他の人の手続でずっと下を向いて書類のチェックをしていたが、殴られたような衝撃音が・・・。

心臓を鷲掴みにされたような恐怖と寒気を感じ、座っているのに膝が震え、思わず書類から顔を上げた。

怖かったのは、鬼嫁さんではなく、黙って座っている小柄なお婆さんだった。
例えて言うなら、静かな水面に石を投げ込んだ後、波紋が広がるような・・・。

お婆さんの「怒り」と「憎しみ」が空気を激しく震わせたように感じた。
先程の殴られたような感覚は、激しい怒りで起きた空気の波紋がぶつかった衝撃だった。

あんなに激しい、それこそ「怒気」が目に見えそうな感情にであったのは、初めてだった。
お婆さんは、何も言わず、硬い表情のまま座っているだけ。
よぼよぼで、体は思うように動かなくても心は衰えていない。
むしろ、体が利かない分、鬼嫁さんに対する恨みなども深く激しいのではないかと思った。

何人か居合わせた他の利用者も水を打ったように静まり返り、お婆さんと鬼嫁さんをチラ見していた。

お婆さんがついて来ないことに気付いた鬼嫁さんが、入口を出た所でわめき散らしていた。
鬼嫁さんは、お婆さんの怒りと憎しみに気付いていないようだった。

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