友人の話。
単独で小さな山に篭もっていた時のことだ。
夕暮れ時、そろそろ野営に入ろうかと思い、適当な場所を物色していた。
大きな松の根元に丁度テントが張れるほどの平坦な場所を見つけ、荷物を降ろす。
その時、頭の上からくぐもった話し声がした。
かすれていて話の内容は聞き取れなかったが、二人で何事か相談している感じ。
何だろうと思って見上げようとした瞬間、ザザァッ!と何かが大量に降ってきた。
次々と登山帽にぶつかって地上に散ったそれは、きらりと金属の光沢を見せる。
数え切れないほどもある注射器の針だった。
見たところ、どうやらすべて使用済みの物のよう。
頭が理解するや否や、慌てて飛び退る。
幸いにも、身体に突き立った針は一本もなかった。
脱兎のごとくその場から逃げ出し、かなり離れた場所で休んだそうだ。
「ひょっとしたら片付けてほしかったのかな」
そう考え付いたのは、山を降りてからだったという。