知り合いの話。
幼い頃、山で薪拾いの手伝いをしていた時。
しゃがんで一心不乱に薪を選んでいると、カサカサという音が聞こえてきた。
息苦しさを覚え顔を上げてみると、目の前に小さな旋風が起こっていた。
灰色の砂が渦を巻いて吹き上がっている。
旋風自体は見慣れていたが、それには何やら嫌な感じを受けたという。
旋風は急に速度を上げて、ずずっと彼に迫り始めた。
思わず薪を投げ棄て、助けを求めて逃げ出した。
叫び声を聞いて飛んできた祖父は、旋風を認めて険しい顔になった。
彼を後ろに庇うとずらりと山刀を抜き、躊躇なく渦の真中に切りつける。
しゅんっ、と音を立てて、旋風は消滅した。
大きく息を吐いた祖父さんは、彼の頭を撫でながらこう言った。
祖父さん:「あの旋風はダイバカといってな、馬を殺す風だ。あれが鬣に触れると、馬は居っ立って、口から血泡ぁ吹いて死んじまう。昔は馬を飼ってた馬子も多かったからな、この辺りにもよく出たもんだ」
不安になった彼に「人は取り殺さないから、まぁ大丈夫だろう」と祖父さんは告げて、そのまま薪拾いを続けさせたそうだ。