へばり付いて痕跡

カテゴリー「不思議体験」

学生時代の話。

夜、部屋の外で「キィン、キィン」と金属音が鳴ったから「?」と思ってカーテンを開けると、窓に真っ白な全裸の男がへばりついていた。

掌と膝、それに頬を窓ガラスに押し当て、目玉をぎょろぎょろさせていて、咄嗟に窓をバンッと叩くと、はらりと落ちた。

ちなみに、部屋はマンションの5階。
すぐさま窓を開けて下を覗き込んでみたが、下の路地には誰もいなかった。
そのまんま男が墜落死していたら、それはそれで怖いけど。

窓には、手と膝、頬の痕跡がべったりと残っていた。
まるでガラスに焼き付いたかのように、いくら拭いても取れなかった。

ある日、遊びに来た友人の指摘で、手の痕跡が両方とも右手であることに気付いた。
Jガイルかよ、スタンド攻撃かよとか言って笑っていたが、その日の夜、その友人から電話がかかってきた。

友人:「うちにも出た、Jガイル」

友人は窓ガラスを叩く勇気が出ず、しばらく窓に張り付いた男と見つめあってしまったらしい。

そのうちペタペタと上階に上がっていってしまい、その後どうなったかは分からない、という。
ただ、友人の窓には手や膝の痕は残されていなかったそうだ。

その話を電話で聞いて「また、こっちにも来るんじゃなかろうな」と心配になり、カーテンを開けてみた。

白塗りの男はいなかったが、ふと見ると、その日の夕方ぐらいまでは、あれほどしつこくこびりついていた手や膝の痕跡が綺麗さっぱり消えていた。

それだけではない。
事前に窓を撮影した写真までも、確かにくっきりと写っていたはずなのに、いつの間にか、ただの窓ガラスの写真に変わっていた。

自分にはその後、何も起こっていないが、件の友人は別の日に「巨大化したあの男が、ビルの壁面をわしわしと登っていくのを見た」と、不愉快そうな顔で言っていた。

「それで?」と尋ねると「もういいだろ」と、ひどく不機嫌になった。
以来、その話をすると極端に不機嫌になるようになったので、あまり言わないことにした。

何が何だか未だにさっぱり分からないが、最初に聴こえた「キィン、キィン」という金属音が何だったのかも分からない。

全裸の白塗りの男に金属要素など全くなかったから。

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