小学生のころの話。
近所の山にカブトムシの幼虫の飼育のために、バケツを持って腐葉土を取りに入った。
杉を植林している谷間を抜けて雑木林に向かった。
腐葉土をバケツ入れ、ふと顔を上げると、目の前に大きな石垣があった。
おかしいな、こんな石垣あったっけ?
しょっちゅう友達と遊びに来ている山だけど、こんなの見たのはじめてだ。
長さは体育館の長いほうの辺くらいある。
お城のそれみたいに上に行くにしたがって反り返っていて、何メートルくらいだろう?家の二階の屋根よりも高い・・・。
不思議な気持ちで石垣に沿って歩いてみた。
端まで来ると石垣は直角に折れ曲がっており、その先もやはりそうだった。
要するに体育館くらいの四角い石垣の土台なんだ。
細い登り道があったので上ってみた。
そう言やあ、父さんが言ってたな、この山には昔、出城があったって・・・。
上るにつれて、風が強くなってきた。
ぬるいような、でもいやな感じのしないやさしい風。
上りきってみて思わず声をあげていた。
そこは地平線まで続く、いちめんの水田地帯だったのだ。
よく晴れた空の下、陽の光をいっぱいに浴びて、みどり色の苗が風になびいて美しい波模様を作っている。
人っ子一人いない初夏のタンボ、タンボ、タンボ・・・。
あまりのことに肝を潰して呆然と見つめていると、地面の底の方から、どーん、どーん、と大砲を撃つような音が聞こえてきた。
その音で我にかえって家までとんで帰ったのだが、家族も友達も誰も信じてくれなかった。
まあ、山ん中の石垣の土台の上に、地平線まで続く大水田地帯があるなんて言っても、誰も信じないだろうけどね。
その後二度とその石垣を見ることは無かった。
ついでに言うと腐葉土の入ったバケツは、その時になくしてしまった。
尻切れトンボで中途半端な話だが、以上がワタクシの体験談でした。