小学生の頃に家族で那須へ旅行に行った。
母親の知り合いの別荘を借りることになっていたのでそこへ向かっていたが、途中道に迷い、車で同じところをグルグルと廻ることになった。
日は暮れるし周りは鬱蒼とした森。
父親が焦っていたので余計不安になった。
尿意を感じ始めた頃には周囲は真っ暗闇だった。
両親は喧嘩をはじめ「おしっこしたい」と言っても「車止めて待ってるからそこの茂みでしてこい」だと。
しかたないので茂みに入り、少し傾斜になった場所を下っていった。
車のライトだけが光源だった。
藪に向かって放尿を始めると、すぐ下を小川が流れているのがわかった。
川のところには木がなかったので、空が開けて星空が見えるかもしれない、と思って俺は空を見上げた。
そして凍りついた。
空に星はなく、人型の影がたくさん飛んでいた。
ちょうど白い長ーい着物をなびかせるような感じでヒラヒラと無数の白い影が両手を広げて・・・。
用足しの途中だったが、俺は前を出したまま、垂れ落ちる水滴をがに股になって避けながら車に戻った。
靴下が少し濡れた。
その後30分くらいして大きな道に戻れたが、家族には何も言わなかった。
あの川のシャラシャラいう音が気持ち悪かった。