知り合いの話。
一人で山を縦走していた時のこと。
夜、誰かに話し掛けられて目が覚めた。
ツェルトのすぐ外側に、誰かが立っていた。
それは執拗に同じ問い掛けをボソボソと繰り返している様子だ。
耳を澄ませているうち、何とか内容が聞き取れた。
「石か?糸か?」
そんなことを彼にずっと聞いている。
寝惚けながらも何か答えなくては、と思い「じゃあ、石で一つ」と返事した。
途端、フッと気配は掻き消えた。
変な夢を見たな・・・。
それくらいの気がして再び寝入ったという。
山から下りて二日後、突然激しい腹痛に襲われて、彼は病院に運び込まれた。
調査の結果、胆石が胆管を塞いでいるとわかり、緊急の手術がおこなわれる。
彼の腹内からは、鶉の卵ほどもある黒い石が取り出された。
医者から「今までに痛かったとか、何か兆候はなかったのか?」と尋ねられた。
結石がこれ程まで成長する間に、まったく何の痛みもないなどということは、まず考えられないのだそうだ。
彼:「腹があんなに痛かったことなど、これまで記憶にない。あんな類いの痛みは初めての体験だった」
医者は最後まで、納得が行かない顔をしていたという。
あの時、「糸」って答えてたら、何が出て来たんだろうな?
そう私が聞くと、彼は首を振って「考えないようにしているから」と答えた。
ちなみにその時の石は、今でも彼の手元にあるそうだ。