母は若い頃、和裁をやっていました。
私が通学していた中学校は、なぜか秋の体育祭の時に女子が浴衣を着て地元の民謡を踊る、というのが恒例になっていて、私はどうせなら自分で縫った浴衣で踊りたいと思い、母に教わりながら浴衣を縫い始めました。
その日、片方の袖を身頃に縫いつけて、疲れたのでもう片方の袖は明日身頃に縫い付けることにして針をしまおうとすると、母が言いました。
母:「片方の袖を付けたら、必ず同じ日にもう片方の袖も付けてから寝なさい。そうしないと、なぜ片方の袖のまま放っておくんだと着物がやって来るから」
・・・着物が恨みがましくやって来ると・・・?
お母さん、それはギャグですか?
笑う私に母は青ざめた顔で言ってくれました。
母:「昔、和裁を習っていた先生が、寝ている時に恐い目にあったと言って・・・。お母さんも信じてなかったから、一度片方の袖を付けたままで寝たら・・・」
母、沈黙。
しょうがないので眠い目をこすって両袖を身頃に付けてから寝ました。
普段、滅多な事で驚いたり恐がったりしない母の怯えた顔が恐かった。