私は殺されるんだ・・・

ずいぶん前に自分に起きた話です。
唯一私の体験した妙な話です。

その当時、大学受験で田舎から上京した私は、しばらく小さな安ビジネスホテルのシングルに1人で泊まっていました。

次の日にある受験に備えて、しばらく参考書と問題集に取り組んだ後、夜更かしをしないように、その夜は23時ぐらいに電気を消しました。

なにぶん狭い部屋だったので、ベッドの脇にあるデジタル時計の緑のライトの表示が、枕もとのすぐそばでいやにまぶしく感じました。

眠れるかな・・・、とぼんやり思ううちに、慣れない都会に出てきて、やはり緊張していたのか、いつのまにか眠りに落ちていきました。

いつだったか、誰かがドアをノックする音で目が覚めました。
ふと目を開けると緑のデジタル時計の明かりが薄ぼんやりと枕もとを照らしていて、『ああ、いつの間にか眠ってたんだ・・・』と気がつきました。
と同時に男の人のもの静かな声が、足元にあるドアの方向から聞こえてきました。

「このフロアで先ほど盗難がありましたので、お客様にも気をつけて頂きたくご連絡しております」

扉の方向に視線をやると、そこには廊下の明かりで、逆光になった男性の黒いシルエットが浮かんでいました。

まだ寝ぼけていた私は『そうか、そんなこともあるんだ・・・』と思い、ホテルの関係者と思われる戸口に立つ人影に「ハイ・・・」と生返事をし、もう一度眠りにつこうとした瞬間、はっと気がつきました。

ありえない。
だって、最後に部屋に入った後すぐに鍵をかけていて、ドアチェーンもかけたはず。
ドアチェーンの長さだけ扉が開いたとしても、あんなに大きく人影のシルエットが見えるわけがない。

おかしい!

全ての感覚がはっきり目覚めた時にはもう、入り口の男性は部屋の中に入ってきてしまいました。

私はベッドから飛び起きる間もないうちに、男は私の上に馬乗りになりました。
抵抗する暇もなく口をふさがれ、そのすぐ後に胸のあたりにまっすぐ立てられたナイフのきっさきを布団を通じて感じ、『ああ、私は殺されるんだ、理由も分からないままで』と無念な思いがひらめいた後、『これが夢であればいいのに』と、強く念じた瞬間、ばっ!と目が覚めました。

部屋の中は真っ暗でした。

ただ、緑色のデジタル時計の表示だけは、相変わらずうすぼんやりと光っていました。
はっきりと胸のあたりにまっすぐ立てられたナイフの感触は、目が覚めた後もとてもリアルで、あれはただの悪夢だったのか、それとも目が覚めた自分は本当は救われたのか・・・よく分かりませんでした。

この後はちょっと間抜で申し訳ないのですが、しばらく呆然とした後、もう一度部屋の鍵とドアチェーンを確認して興奮が落ち着くと、また眠りについてしまいました。

かなりずうずうしいですね。
でももう、その夜は悪夢を見ることはありませんでした。

次の日の朝、あまりにも受験に気を取られていたので、ホテルの人に確認することもなく、そのまま受験場に向かいました。

いつもつじつまの合わない夢らしい夢しか見ることはないのですが、後にも先にも、あれほどリアルな悪夢を見たのは初めてでした。
これまでの人生の中で唯一体験した変な夢です。

長々と駄文に付き合って下さった方、どうもありがとうございました。

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