誰かの死に便乗?

カテゴリー「不思議体験」

20年以上前の話だそうだ。
知人から聞いた話なので、詳細は不明。
まあ、あまり深く知りたいとも思えな種類の話だ。

九州のとある離島。
といっても、何という島かはすぐに分かるんだが、とりあえず伏せておく。
その島に海老の養殖場が造られることになった。
大規模なもので、工事期間は一年近く及んだ。
その間、かなりの事故や人災が起きた。

建設現場で働く人々も、これは何かあるなと思っていると、案の定多数の人骨らしきものが出てきた。
それはかなり古いもので、埋葬もされておらず、打ち捨てられ朽ち果てたものだったらしい。

何か歴史的な経緯があったのだろうが、出資者や建設会社は具体的な調査もせず、そのまま工事は続行された。
ただし、不安に包まれた現場の空気を察して、ある徳の高い僧侶が招かれ、祈祷供養することになった。
一昼夜にわたる祓い清めの最中、その僧侶は己の力不足と、加持による恒久的な慰霊を勧めたそうだ。

曰く、「ここには一族郎党を屠られた怨みの念が強くある。その一族の長を弔わねば、災いがなくなることはないでしょう」

それを聞きつけた関係者は、やっぱりと思ったそうだ。
地鎮祭の時、神主の振る榊がまっ二つに裂けたという。

大幅に工事は遅れたものの建物は完成し、何とか養殖所の操業が始まった。
あいかわらずトラブル続きで、事業はうまくたちいかない。
融資者の何人かは、説明のつかない災難に見舞われたりしたそうだ。

そして養殖場の中では、いくつもの幽霊が徘徊した。
事務所、冷凍工場、養殖池、至る場所、昼夜を問わず幽霊は出現したらしい。
そこで働く従業員のうち、そういう現象に慣れる者もいた。

手首に数珠を巻き、出くわしたら両手を合わせる。
そんな光景があたりまえになった頃、やはり、どうしても馴染めぬ人たちもいた。
内地から泊りがけで勤務する警備員は、特にそうだった。

当時、その知人は地元でフリーターをしていた。
ちょうど仕事が切れた頃、割のいい警備員のバイトを見つけた。
配置先がその養殖場だったというわけだ。

「幽霊を見たからって、何があるわけじゃない。ただ、気味悪いだけだと思ってた」

知人の仕事は敷地内の巡回警備と、建物の入管チェックだったが、その他にも重要な仕事があった。
それは、深夜に頻発する電源トラブルの復旧作業だった。
海老を冷凍保存するための設備が、原因不明の停電を起こす。

その際、設備の分電盤に行ってブレーカーを戻したり、制御盤のヒューズを交換するというものだった。

「でも気になってたよ。背筋がぞくっとくるのがさ。あれって人間の本能的な反射だろ。危険を感じた時なんかのさ」

知人が冷凍工場のトラブルに対処する際、常に二人で行動した。
そして、工場内のとある場所で、必ず二つの幽霊を目撃したそうだ。
一つは、通路の曲がり角をすっと横切る姿。
もう一つは、機械室の扉を開けるタイミングで、ぼーとあらわれる着物を着た男。

「何度も遭遇して、場所もタイミングも分かってるんだけど、ぞぞってくるんだよな。俺の本能が危険を知らせてるのかと思ったね」

同じバイトだった知人の同僚は、勤務して三日目に高熱を出し、耐え切れずに仕事をやめたそうだ。

「そいつがいなくなってから、曲がり角の幽霊がぱったり現れなくなった。たぶん、幽霊がそいつに取り憑いて、一緒にどっか行ったのかもしれないな」

そんなことを考えていた知人は、ある時、気味の悪い妄想を払拭できなくなったという。

「つまり、幽霊が成仏するとしてさ・・・・誰かの死に便乗?みたいなことするんじゃないかってね」

知人はその考えに囚われて、仕事を続けられなくなったそうだ。

「俺も馬鹿げた考えを否定したくて、いろいろ聞いて回ったんだが、やっぱり因縁はあるんだよ」

その島は、鉄砲伝来の地であるということ。
そして、刀狩や鉄砲禁止令によって、一つの技術者集団が歴史から抹殺されたこと。
知人は、何ら確証があるわけではないと断りをいれながら、自分が目にした幽霊の姿や振る舞いから、そんな風に想像したのだと語った。

「技術大国の日本が、ロケットの打ち上げに失敗するだろ。そのたびに、何か非科学的な妄想にとらわれるな」

そう言えば、あの島には衛星打ち上げの基地があった。

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