俺が釣りを始めた頃の話。
俺の祖母は離島出身で、夏休みは毎年その島に遊びに行ってた。
その島で俺は祖母の弟っていうおじさんから釣りを習った。
幼稚園生になったかならないかの頃だから複雑な仕掛けはムリ。
俺ンジ色のでかいプラスチックの浮子つけて五目釣りだ。
どこまでも海の底が透き通って見える海に仕掛けを投げこむといろんな魚がわらわらと寄ってくるのが見えてすぐに釣れる。
チョウチョウウオだったり、ニザダイだったり、メジナだったり。(方言名で書くと島を特定されそうなんで標準和名で...)
夢中になって釣ってると、そのおじさんがニコニコしながら「○○(←俺の名前)は釣りが好きか?」って聞いたんだ。
俺:「うん、好き。とっても楽しい。」
おじさん:「そうか~、じゃ、面白いもの見せてやる」
何かと思ったら、おじさんはいったん仕掛けをあげて、「ここにいる魚のうち○○の好きなのを釣ってやる」って。
俺は???って思ったけど、「じゃニザダイ」って言ったら「ほいよ」って、すぐにニザダイを釣り上げた。
「ヒラアジ」
「ほいよ」
「ブダイ」
「ほいよ」
???
「チョウチョウウオ」
「ちっと難しいな、ほいよ」
??????
「何でそんなこと出来るの?」って聞いたら「○○も上手になったら出来るようになる」って笑う。
今思うとあの仕掛けで換えられるのは浮き下くらい。
しかし、それで完璧に魚の釣り分けができるとは考えられない。
仕掛けを入れた途端にわらわら魚が群がるあの海。
色んな釣りを一通りやり、多少は上手になったが、いまでもあの「リクエスト釣り」は出来る気がしない。
というより、上手になるほど出来る気がしなくなるんだ。
一体、どうやってたんだろうね。
本当に不思議だよ。
そのおじさんは数年前にガンで他界した。
最後に見舞いに行ったとき、「治ったらまた釣りに行こう、今度は魚の釣り分けの仕方、教えてくれよ」と言ったら、「○○が上手になってたら教えてやる」って笑ってた。
多分あれは、俺には一生できないだろうな。