親父と武藤家の謎

カテゴリー「不思議体験」

これといって何かが変と言うわけじゃないし、その後何かが起きたワケでもない。
大したことじゃないのかもしれないが、一度、誰かに話しておきたいと思い、長文で大変申し訳ないが、書かせてくれ。

俺40歳が中学3年か高校1年の時の事だ。

父と祖父は北海道のU市の生まれで、曽祖父が福島県の山村(地名は忘れた)から、U市に婿養子で移ったそうだ。
今の苗字の伊藤(仮)と違って、曽祖父の苗字は武藤(仮)。
父は6人兄弟の5番目だが、この時、生き残ってる伊藤(仮)家はウチだけ。

当時、父から何度も武藤(仮)家へ挨拶しに行かないか?と、と言われていたが、俺は反抗期なのか特に理由も無いのに「面倒くせぇ」とか「父だけで行って来れば?」と乗り気でなかった。

それでもしつこく「行こう、行こう」と煩いので根負けし、中学3年か高校1年の時の夏休みに3泊4日で福島県へ旅行に行った。

父が運転する車で関東南部から福島まで走り、初日2日までは会津を中心に周って、3日目に武藤(仮)家へ。

もの凄い山奥で、ラジオもまともに受信できなかった。
武藤(仮)家へは、舗装されていない田舎道の先にあり、辺りに民家はおろか脇道も無く、迫る山々と曲がった田畑しかない。

着いたのは昼過ぎで、武藤(仮)家は昔ながらの日本家屋という造り。
駐車スペースが玄関前しかないので、ここに車を止め、手荷物を持って玄関へと向かう。
玄関を開けると真っ直ぐ奥へ伸びた土間があり、その右側に囲炉裏のある居間。TVがあってNHKが映っていた。

俺はペコリと軽く挨拶だけ済ませ、そそくさと外へ逃亡。
父と姉は、家に残り長々と挨拶をしているようだ。

外へ逃亡したは良いものの、こんな山奥じゃ何もできない。
仕方なく家の周りをグルグル歩き回ってみたが、母家の裏は森、両脇は田んぼ、正面は車で通った一本道しかない。

夕飯を馳走になり、父たちは今の生活とか親族などの話をしている。
今思えば、話してるというより、上司に報告しているような話し方。

ガキの俺は、そんな大人達の話など興味なかった事もあり、武藤(仮)家の人達の会話に参加する事なく、つまらないNHKを見たり、持参したゲームボーイをやっていた。
確かテトリス。
武藤(仮)家の人々は、爺さん、息子夫婦?、同い歳くらいの娘の4人だけ。

夜20時くらいで俺は「もう寝る」と言い、廊下の先にある寝室として宛がわれた奥の間へと行った。
そこは6~8畳くらいの部屋に布団が3つ敷かれていて、俺は涼しそうな窓側の布団へ潜った。
何を話しているか分からないが、大人たちの話声が聞こえる。

夜中、多分0時~2時位にトイレで目が覚めた。
他の布団を見るとまだ使われていない。
「まだ、話しているのか・・・」と呆れつつトイレへ向かう為、寝室を出た。
居間の近くまで来た時、明かりは点いているのに人気が感じられなかった。
耳を澄ませても話し声どころかNHKの音も聞こえない。

そっと襖を明けると、爺さんが一人、囲炉裏に何かを放り込んでた。
枯れ枝の様な藁のようなそんな感じ。

俺がボーっと立っているのを爺さんが気付いて、「おお、◯◯君、どうした?」と声をかけてきた。
「トイレです・・・、あの、父と姉は?」と問うと、「ああ、あの子らは息子(夫婦)と飲みに行ったよ」と答えた。

なんだそういう事か・・・と納得し、俺は爺さんの前を通って屋外のトイレへ出た。

玄関前の車にぶつかりそうになりつつ玄関右側のトイレへ進み、用を足す。
もの凄い静かだったのを覚えている。
俺の小便の音が家の爺さんに聞こえるのではないか、と思えるくらいに。

家の中に入り、寝室へ戻る為、爺さんの前を通ると、背後から「~は、~なかったかね?」と言ってきた。
良く聞き取れなかった俺は、「トイレは怖くなかったかね?」と言ったと思い、「えぇ、まぁ」と曖昧な返事をして、さっさと寝室へ向かった。

朝、遅く目覚めた(8時頃)俺が話声の聞こえる居間に入ると、父と姉、爺さん、息子夫婦が朝食を取っていた。
娘はいない。

父からは「いつまで寝てるんだ!」と軽く怒られたが、武藤(仮)家の人々からは「まぁまぁ」とか「いいじゃないの」など。
父から聞いていた予定だと、朝食後に御先祖の墓参りへ行き、そのまま帰宅するはずである。

御先祖の墓は、この家の裏手の森を抜けたその先にあるという。
ただ、墓参りはその家庭の長男又は総領が行く決まりになっているらしく、俺はお供えと線香を持たされ、母家裏手の森を、言われた方向に真っ直ぐ抜けていった。
道は無かったが数十m進むと木々の奥に開けた場所が見え、中心に墓らしきものが見えてきた。直線で100mも無い。

そこは墓を中心に半径2~3m程度の空間で、雑草は生えておらず、土が露出している。
墓石は古くて小さい(高さ50cm位)が、手入れは行き届いており、真新しい花も活けられていた。

ウチにも母の墓があるので、お参りの作法は小学の頃から心得ている。
とはいえ初対面の墓、何か思う事も無く、お供えをし、線香に火をつけ、手を合わせ、南無阿弥陀仏と軽く唱え、来た道を戻った。

森を抜けるとそこには、武藤(仮)家の娘が一人出迎えで立っており、「おつかれさまでした」と深々と俺に頭を下げた。

そんな大層な事か?と思いつつ俺は、「はぁ、まぁ」とだけ答えて玄関へと向かった。

帰り支度はもう済んでいて、車のエンジンもかかっていた。
父と姉は、武藤(仮)家の人達と和やかな雰囲気。
お土産を貰う貰わないで押し問答している。

「なにやってんだか」と呆れ顔で見てる俺に爺さんが気付き、「おお、おつかれさん、どうだった?」と聞いてきたが、どうも何も、ただの墓参りじゃん、と言う感じで、「はぁ・・・、終わりました」とだけ答えた。

それを聞いた爺さんも父も武藤(仮)家の親父もそろって、「あぁ、良かった!良かった!」と安心している。

車に乗り込み父は意気揚々と「さぁ帰ろう!」と張り切ってたが、車を反転できない為、俺と姉が誘導しつつ昨日来た道をバックで戻り、ようやく帰途についた。

そして、去年、家族旅行で福島を通った時に「そういえば・・・」と、父にあの時の事を色々聞いてみたが、「ああ、あれはもういいんだ」とか「一度は行かなきゃいけなかった」とか、「俺(父)が死ぬまでに行けて良かった」など、イマイチはぐらかせられている感じ。
俺も、考え過ぎかな?と思うようになってる。

長々と済まなかった。
でも、少し長年のモヤモヤが溶けたきがする。

なんだかお墓に居るのが本当の両親とか肉親でそれを内緒にしている様にも感じた。

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