それは仕込みではない

カテゴリー「不思議体験」

俺が中学生の頃、仲の良かった地元友人等5人で集まり夜中、友人宅で百物語をしたことがある。

当然、5人で百話も話せるわけでもなく、その場での創作話やどこかで訊いたことのある話、最近TVで見た話など正直怖くもない話が続いた。
それでも百物語を行った部屋が仏間で、部屋の電気を消しロウソクの灯りのみ。

友人宅の家族は父親だけだが、別室にいてあらかじめ今日の事は話してあったので緊急時以外は立ち入る事はないらしい。

線香も焚いたし雰囲気は万全だ。

20話位進んだ頃になると、もう話すネタも創作も尽きて「そろそろ終わりか」と、皆が察し始めた頃、いつの間にかドアのすき間から友人の父が覗いていた。

全員が絶叫し、部屋の隅に固まってギャーギャー騒いでいると、今度は部屋の窓ガラスをバンバンガタガタと誰かが叩いている。

パニック状態になって阿鼻叫喚と化した。

この仏間のドアがバタンと閉まり、出ようと思っても硬くて開かない。

玄関のドアをガチャガチャといじる音が聞こえたり、他の部屋の雨戸がガラガラと開いたり閉まったりする音も聞こえる。
すると、この家の友人がこの状態に耐え切れずに笑い始めた。

「いやぁ、ゴメンごめん」

そう言いつつ、ゲラゲラと笑いながら友人は事の正体を話し始めた。

友人は自分の父親に頃合を見計らって自分等を脅かして欲しいと、お願いしていたのだと言う。

さすがに俺はコイツをぶん殴ってやろうかと一瞬怒りを覚えたが、こういうイベントをくわだてる事には長けているヤツだったし、本物じゃなくて良かったという安心感から、脱力して笑い飛ばしてた。

部屋の明かりを点け時計を見ると、もう夜も明けようとしていた。

「腹も減ったし、コンビニでも行こうぜ」

誰ともなく言い出し外に出ようと部屋のドアをつかむと、ドアが開かない。
鍵のあるようなドアじゃないし、押しても引いてもビクともしない。

友人:「父さん、もう良いよドアを開けてくれよ」

友人:「ねぇ、聞こえてるでしょ、ドアを開けてよ!」

ドアをドンドン叩いてる。
ドアノブをガチャガチャするが開きそうにない。

他の友人は「またまたぁ、そうやって驚かそうとしてぇ」と、おどける。
だが、友人は真顔で何度もドアを開けるよう父親に懇願している。

おいおいマジかよ、と嫌な雰囲気が湧き上がると、玄関がガチャリと開く音が聞こえ、トストストスと足音が聞こえる。

今までどうやっても開かなかったドアが開いて「おぉ、終わったか。ほら朝飯買って来たから皆で食べな」と、友人の父親が現れた。
皆が安心でヘタリヘタリと腰を抜かし、数分間放心した後、絶叫した。

もう20年くらい前の話で、この後の事は正直良く覚えてない。
その友人は数年後に引っ越した。

今でも交友はあるが、この日については今も触れようとしないし、こっちも聞くつもりはない。

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