知り合いの話。
彼の住んでいる町は、ハイカーで賑わう山の麓にある。
時たま奥の沢で転落する者がいて、下流に流されてくるのだという。
彼は青年団の務めとかで、そういう亡骸を引き上げに行くそうだ。
「この川で仏さんが引っ掛かっている場所って大体決まってるんです。二箇所あるんですけど、上流側の方が、何というかその、おかしな場所でして。そこで見つかる仏さん、みんなニコニコした笑顔のままで浮かんでるんですよ。頬の肉が固まってるのか、然るべきとこに引き渡すまでずっとニコニコなんです。生きている人がニコっとするのは別段何も思わないんですが、仏さんがそうなのはちょっと怖いです。今でも慣れません」
――河童に溺れさせられた者は、笑い顔のまま沈んでいるというよ。
尻子玉を抜かれると、苦しいのに顔だけは、どうしても笑ってしまうんだって。
もっともここじゃない他の地方での伝承だけどね――
そんな言い伝えを思い出したので話してみたところ、「え、河童ですか?さて、内方の沢に出るとは伝わっていませんけど」
そう首を傾げる彼だった。