夜の2時のチェックイン

カテゴリー「不思議体験」

京都のビジネスホテルでバイトをしていました。

たまに妙な客が来るんですよ。
まあ色んな人が来るわけだし、ホテルだからなあと、開き直って勤めてたんですが、ある夜妙な女性客がチェックインしたんです。

青いレインコートを着込み、眉毛から眼窩まで隠れるサングラス、ほつれた黒髪で痩せていた。

年齢は40ぐらいの中年で、体中から陰気な空気が漂っていた。
夜の2時にチェックインして、30分後にまた外に出て行き、また戻ってくる。

薄気味悪くは思っていましたが、そういう散歩なのかな・・・と思ってやり過ごしました。
それが一度目の来館。

二度目もまた深夜に来て、また散歩。
その時は朝6時頃に帰館、また部屋に戻る。

それから1時間ぐらい経ったあたりだろうか、またその女がロビーにいる。
おりしも修学旅行のシーズンだったので、ロビーには中高生のバッグが大量に置かれていて、その向こうに電話機を設置しているんだけど、それを女が使っているみたいなんですよ。

バッグを整理するついでに、電話の内容をちょっと聞いてみた。
というか、普通に電話を使っていなかったみたいなんだけど・・・。

普通に電話を使っていなかったっていうのは、どうやら誰かと会話をしているみたいなんじゃなかったという事。
延々と受話器に向かって早口で喋っていた。

「アメリカ軍はやることがエゲツないでんなあ。捕虜に映像を見せて・・・」

みたいな事を喋っていたんだと思う。

不意に口を止めて受話器をガシャンと置く。
テレホンカードがピピーピピーという音と共に電話機から吐き出される、女はそれを挿入口に戻し、デタラメとしか思えない速度でダイアルボタンを押す、あとは下みたいな単語の出てくる事を受話器にまくし立てて、

「戦争」
「日本兵」
「映像」
「オブリージュ(?)」
「光」
「あんさん」

また受話器を乱暴に降ろす。
たまにダイアルボタンを押してすぐ受話器を降ろす事もあった。
飽きたのかロビーを出て、散歩に行く。

納得が行かなかった的な顔をして電話機にまた向かい、同じ事をする。
鳥肌が立って、朝は仕事に集中できなかった。

しばらくしてホテルを辞めた。
後に機会がありこの事を同じ所でバイトしてた仲間と話していたんだけれども、途中で、もしかしたらの話だけど、その女はテレカを入れてランダムにボタンを押し、向こうのベルがプルル・・と鳴った時だけセリフを喋っていたのかもしれない。

宿泊の時に宿帳に書いた名前の下手な字が今でも思い出せる。
カタカナでした。
ただし日本名。

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