どこに書けばよかったのわからなかったのですが、実体験なのでここに。
心霊やお化けとかではなく、自分自身の頭がおかしくなってしまったという話です。
たぶん。
もう十年以上前のこと。
私はとある広告制作会社で働いていました。
同じような業界の方はご存じだと思いますが、制作系の会社では終電帰りは当たり前。
徹夜が2?3日続くようなことも珍しくありませんでした。
そんな状態だったので、身も心も常にギリギリ。
唯一、自分の救いとなっていたのが、大学時代から付き合い、社会人になって同棲を始めた当時の彼女でした。
普通の会社の人からは決して理解してもらえないようなブラックな働き方にも、「若いうちはしょうがないよ」と理解を示してくれる彼女に対して、私は結婚するならこの人しか有り得ないと考えていました。
そんなある日のこと。
前日は徹夜で働き、その日も、家に帰ったのは深夜2時を過ぎていました。
そんな時間ですから、もちろん彼女は寝ています。
疲れ果てていた私は、夕飯を食べる元気もなく、シャワーだけ浴びて寝室に直行。
寝ている彼女を起こさないように、ベッドに潜り込みました。
そして、翌日のアラームをセットしようと携帯電話の画面を開いた時、横を向いて寝ている彼女の顔がうっすらと暗闇に浮かび上がりました。
「えっ!」と、思わず声を漏らしたのは私です。
なぜなら、横に寝ている彼女の顔が、私のまったく知らない女性の顔だったのです。
いやいや、そんなはずはない。
きっと疲れているせいだ。
そう思い、もういちど携帯の光を彼女の顔に向けました。
けれど、やはりそこにあるのは、見たこともない女性の顔。
それは、髪型を変えたとか、いつもと違う化粧をしているとか、そんなレベルの話ではありません。
完全なまでに、全くの別人です。
驚いた私がベッドから起き上がろうとすると同時に、携帯の光と振動で隣に寝ている女性も目を覚ました。
そして、混乱する私をよそ目に、「おそかったねぇ、おかえりー」と何事もなかったかのような反応。
その、あまりにいつも通りの反応が、私をかえって混乱させました。
「ふざけるな、おまえは誰だ!」と怒鳴りつける私に、「え、ちょっと、なに言ってるの、K(彼女の名前)だよ、Kだよ」と逆に向こうが怯えている様子。
もう何がなんだか分からなくなった私は、ベッドが飛び出し、急いで部屋の明かりを付けました。
ベッドの上に座っているKだと名乗る人物は、やはり私の知っている彼女ではありません。
「顔が全然違うじゃないか!」と怒鳴る私に、その女は、「何言ってるの、私はずっとこの顔だよ」と言ってきます。
確かに、その声や言葉遣いは、私の知っているKです。
その後、少し冷静になった私は、自分の記憶にあるKと、今、目の前に座っている女性の顔が全然違うということを素直に告白してみました。
私が激務で頭がおかしくなったと思ったのでしょう。
彼女は泣きながら、これまでの二人の思い出をいろいろと語り出しました。
そして、自分がKである決定的な証拠として、これまで一緒に取った写真を出してきたのです。
その中にいるのは、間違いなく、いま目の前にいる女性でした。
彼女がした思い出話にも、なんらおかしな点はありません。
けれど、その共通の思い出の中で、私が思い浮かべる彼女の顔は、まったく別の女性のものなのです。
結局、その日は、私が疲れすぎているということで話は落ち着きました。
その後、共通の友人にあっても、誰も今のKを不思議がる人はいません。
そして数年後、私は彼女と結婚し、子どもも産まれました。
けれど、あの日以前の記憶の中にいる彼女は、今でも別の顔の女性のままです。