そこへの切符を持っていなかった

カテゴリー「不思議体験」

関東にある地方列車に通勤していた人から聞いた話。

その人はA市という駅から始発に乗り、通勤しているのですが、その電車は区間が短い私鉄で乗車時間は15分ほどもないのです。
その日は疲れていたのか、心地良い車内で珍しく車内が座れたため、そのままウトウト寝てしまいました。

はっとして目が覚めると、乗っている車両は同じ、でも辺りは見た事もない田園風景のなかでした。
その人はボンヤリしながら「知らないうちにねぼけて、間違って乗ってしまったのかなぁ・・」と、余り深く考えないで乗り続けていました。

自分のとなりに座っていた老夫婦の話を何気なく耳を傾けて聞いていると、「・・・そういえば、お前にもずいぶん苦労かけたよなあ」「そんなに気にしないで」と会話をしていました。

目の前にたってる女子高生たちの会話を聞いていると、「もう少し色々な所いきたかったよねー」「なんか、本当に残念だね・・・」と、話していました。

しばらく走っていくと、旧字体の漢字が8文字くらいあるような難しい漢字の名前の駅に停まりました。
そこで3人程降ります。
そこの駅は田舎の無人駅の様で、車掌が切符を受け取ると、電車は再び発車して、降りた客は田圃の一本道をずっと遠くの方まで歩いていました。

「朝なのに仕事もしないで、皆はどこに行くのだろう・・・?」とぼんやりと不思議に思いながら電車から、外の景色や人々を眺めていました。

電車は日暮れになりはじめ、すっかり夕方になってきてました。
記憶では、電車は明かりも付けずに夕日の中を走っていました。

その頃には、さっきまでいた隣の老夫婦もいなくなり、目の前の女子高生もいなくなり、満員電車も数人しかいなくなっていました。

田舎の地方のローカル線のように暮れゆく田園の景色の中を、電車は走っていきます。

さすがに「会社に行かないと」と思い。
近くに来た車掌に聞きに行きました。

「すみません。S駅には、いつ着くのでしょうか?」

「切符みせてください」

定期券だったのですが、急に言われた事もあり、なぜか切符を探してしまいました。
普段は定期券なのでもちろん、いくら切符を探してもみつかりませんでした。
すると、車掌が怒り始めました。

「お客さん!!切符無しに乗り込まれちゃこまるんだよ!この電車は貸切りなんだから!早く降りてくれよ!!今すぐ降りろ!」

彼は車掌に襟首を掴まれ、車内をひきずられました。
車掌は走行中のドアをガラガラっとあけると、その人を車外に放り出しました。

彼は列車からほおり出されると、丁度そこは川をまたぐ鉄橋で真っ暗の中を落下して行きました。

・・・「あれ?ここは」

それが第一声だったそうです。
気が付いたときその人は・・・。

ある市立病院の病棟で鼻や気管に何本も管を差し込まれた状態で、時刻はもう夜の22時頃だったそうです。
その人が乗った列車は、駅の停車場に激突して多数の死傷者を出したあの列車だったのです。
彼は朝から意識不明で、危篤状態からようやっと生還したのです。

いまから10年ほどまえ、関東近郊のある鉄道で実際にあった事故からの生還者の貴重な話です。

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