幼い頃の娘は滑舌が悪くて、何を言ってるのかさっぱり聞き取れなかった。
「ひっつきもっつき」が「みっちょりもっちょり」になったりするのだ。
三歳四歳の一人遊びをはじめる年頃になったら、発音の悪さにくわえて、ぶつぶつ口の中で呟く事が多くなり、ますます聞き取れない。
ある日親子三人で風呂に入っていたら、リラックスしたのかいつも以上にぶつぶつ呟く娘。
夫が「いったい何を言ってるんだろうね?娘の言葉を聞きたいなあ」と言う。
話題の主の娘は、そ知らぬ風にガーゼハンカチで空気クラゲを作って遊んでいる。
夫の言葉に「そうかな?あまりたいした事は言ってないんじゃない?それに・・・」と言いよどむ私。
頭の中の考えを言葉に翻訳するのが苦手なのでしばらく考え、『・・・それに、どうせテレビとかの真似だから』と頭の中で言葉を組み立てて、口に出そうとした瞬間、娘が「それにどうせてれびとかのまねだから」と、そこだけ何故かはっきり聞きとれる口調でぶつぶつ。
娘の言葉と私の表情から何かを察した夫が、「・・・聞こえない方がいいみたいだね」。
娘は私たちと目もあわせず空気クラゲを作り続ける。
正直、ちょっと怖かった。