小五の頃の話。
塾の夏期講習が終わった後に、水風呂入ってさっぱりするのが日課だった。
午後五時過ぎ、いつも通りひとっ風呂浴びて体を拭いてる時、すっかり日常の音と化してる車の通過音が全く聞こえないのがふと妙に思えた。(因みに家は国道沿い)
なんか気持ち悪いな、と思いつつもそのまま体を拭いていると、突然「チチチチチチチチ」と聞き慣れない音が脱衣所中に響き始め、異様な事態に流石にビビって思わず発信源を目と耳で追ってしまった。
隅のアナログ時計だった。
その時計の針全部がもの凄い勢いで反対に回って、つまり巻き戻っていた。
・・・全く事態が飲み込めなくて、しばらく固まって尚も猛スピードで回る時計の針を見つめていた。
唖然と眺めるうちに、針は三時、二時、一時・・・とみるみる時間は巻き戻る。
・・・と、それに気を取られている間にまた変化が起きていた。
暑い・・・。
とにかく暑い・・・。
真っ昼間みたいに、少しは日も傾いてるはずなのに。
目の前で起こっている「時計」の巻き戻りが「時間」の巻き戻りだと認識した瞬間、「ホゥウウウゥアアアアアアッアアアア!!!」と奇声を上げながら脱衣所からスッポンポンで飛び出すと、俺はバスタオルで頭を覆いソファに突っ伏した。
結局午後の七時前頃、おかんが仕事から帰り「・・・あんた・・・何してんの?」と声を掛けられるまでずっとケツ丸出しで震えていた。
すぐにいきさつを話すも勿論信じてなどもらえず、バカバカしいと笑われながら恐る恐る例の時計を二人で確認しに行った。
時計は午後七時半ほどを指していた、至って正確に・・・。
今でもその時計はもう十年以上、止まらず、遅れず、早まらず、電池の交換も無しに同じ場所で正確な時刻を刻み続けている。
俺は今でも夕方時の入浴は絶対にしない。