知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「ある奥地の山に入った時にですね、不思議なことがあったのです。自分以外誰もいない森の中で、何処からかクシャミする声が聞こえたんですよ。するとその途端、辺りがとっぷりと暗くなる。あれっどうしたんだろうって思っていると、再びクシャミがして。すると今度は元通りパッと明るくなる。何処かの誰かがクシャミを繰り返す度に、自分の周りが昼と夜とに切り替わっているような、そんな体験をしたのです。あまりに奇抜な体験で動くことも出来ませんでしたが、その内に異変も収まって、何事もなかったかのように元に戻りました」
「後で聞いたところ、その山の奥には大きな蛇が棲んでいるっていうんです。蛇というか、蛇神様みたいな扱いされていたみたいですけど。崇められていた訳でもなくて、そうですね、日本で言うところの祟り神みたいな存在だったんでしょう。この蛇神様は、昼と夜とを切り替えるのが仕事なんだそうです。この神様、時々具合が悪くなって、私が体験したように夜昼が滅茶苦茶になってしまうことがあるんですって。面白い神様ですねえ」
「まぁ実際のところ一種の幻覚というか、感覚器官の異常なんでしょうけどね」
彼はそう言って笑っていた。