1年前の冬。
友達二人と山道をドライブをしていると、途中でエンストしてしまう。
携帯の電波が届かないような場所だったので、どうしようかと半パニックになる。
とりあえず、すれ違う車を発見したら助けを求める、という結論で一致した。
暫らくすると、ロングコートを着たスーツ姿の男が歩いてくるのが目に入った。
明らかにおかしい。
ここまで2時間は走ってきたが、あんなヤツは一度も見なかった。
そもそも、こんな山道を歩いている時点で異常である。
私達は車に乗り込んでやり過ごすことにした。
コンコンと窓を叩かれ、そちらを見ると男が立っている。
パワーウィンドウが動かず、かといってドアを開けるのも怖いのでガラスごしに話した。
男は一見して高校生のような顔をしているが、その雰囲気は老成していた。
声は低い美声で、正直なところ年齢不詳だった。
男:「どうしました?」
友人:「・・・車がエンストしたんです」
男はいきなりボンネットを開け、暫らくそこを眺めている。
そして、唐突にエンジンが掛かった。
男:「もう大丈夫ですよ」
修理してくれたのかと思ったが、男の指には油ひとつ付いていなかった。
友人:「良かったら乗って行きますか?」
男:「私はここに仕事があるので」
そう言って来た道を引き返して行った。
背筋がピンと伸びた軍人のような歩調だった。
あの人は山の神様に仕える人だったのかもしれない。