友人の話。
彼の実家は山奥の旧家である。
子供の頃から年に何度かの割合で、尻尾を見るのだという。
暗く長い廊下を歩いていると、先の闇中でズルズルと這う物がある。
どうみても蜥蜴の尻尾。
灰色で柔らかそうな。
ただ、大人が一抱え出来そうなほどの大きさがあるけれども。
追いかけると、するりと角を曲がって見えなくなってしまう。
駆け付けた角の先には、動く物など何もいない。
そんなことが度々あったのだと彼は言う。
家人によると、ヤモリサマの尻尾だろうということだ。
昔からこの家に住まう守り神だと聞かされた。
「ヤモリって多分“家守”って字を当てるんだろう。でも本当に守ってくれているかなんて、実際誰にもわからないけどな」
今でも里帰りした折、見ることがあるらしい。
「出なくなったらなったで、ちょっと寂しく思うかもしれないね」
生真面目な表情で、彼は呟いた。