知り合いの話。
彼は電波中継棟のメンテナンスを生業としている。
人里離れた山奥にある物が多いのだが、その中には奇妙な物件が偶にあるという。
「どうもね、中に何かが入り込んでるんだよ。錠が下りて閉まってるのに、開けるとムッと獣臭がする。入ってみると、黒い毛で作られた、巣みたいな物が隅っこにあるんだ。何かで固められてて、饐えた臭いがする代物が。でもその中には何も居ないんだよねコレが。何処から入り込んで、何処へ出て行ったんだろう?」
「残ってた毛を調べてもらったヤツがいたんだけどね。数種類の動物の毛が混じっていたらしいよ。だからやっぱり、何がその巣を作っていたのかは謎のままなんだ」
「同じ敷地内にさ、小さな祠があるんだよ。聞いた噂じゃ、昔はその祠の中に巣が作られていたらしい。局の建物が出来てから、いつの間にかこちらに移ってきたんだとか。狭い祠より中継棟の方が居心地が良いのかね。あそこも中はそんなに広くないんだけどな」
以前は巣を壊していたのだが、今はそのまま放っているのだそうだ。
「壊しているうちに、段々と邪魔にならない場所に移動しちゃって。そうなると、何度も作り直させるのも悪い気がするし。やっぱり共存共栄の精神だよね」
ただ、一体何と共存しているのかは、深く考えないようにしているそうだ。