うちではお墓参りに行くと必ず、共同墓地と無縁仏にも線香をあげ手を合わせる。
幼い頃、親は「誰もなりたくて無縁さん(うちでは無縁仏をこう呼ぶ)になった訳ではないから」と言い、そんな親の真似をするうちに自然と習慣となっていた。
学生の時、夏休みで帰省しまた戻る前日にお墓参りした時もいつものように共同墓地と無縁仏にも手を合わせた。
私はその頃、埼玉に下宿しており、翌日は池袋で少し買い物をしてから下宿に戻ることにした。
サンシャイン通りを歩き四つ角にさしかかろうとしたところで、「ちょっと待って」と後ろから誰かにポンと肩を叩かれた。
振り向いても誰もいない。
「変だなぁ」と首を傾げ、ふと視界の隅にボロ布が見えた。
「ん?」と顔を上げると、全身ボロ布に身を包み、破れたサンダルをはき空き缶を紐で縛りズルズルと引きずった若い男性が目の前を通り過ぎた。
そして男性は向こうの角で硬直する女性を見て奇声を上げると、笑いながら飛び掛かっていった。
辺りは悲鳴と怒号が広がった。
もし、あそこで声に振り向かなかったら男性とぶつかりとんでもないことになっていただろう。
今から思えば、あの時の声に覚えはなかった。
男性でも女性でもない不思議な声だった。