仲間三人で夏山を縦走していた時のこと。
開けた場所を選んでテントを張った。
その野営地には、たくさんの白い百合の花が咲いていた。
真夜中、仲間一人が急に起き出したために、他の二人は目を覚まされた。
眠りを邪魔した仲間は、テントの床を這いずり回っていた。
何度呼びかけても返事がなく、やがて芋虫のように這い出ていったという。
開け放たれた入口から、百合の花が一輪ゆっくりと揺れているのが見えた。
二人が続いて外に出て見ると、月光の下で揺れていたのは百合ではなかった。
白く細い手が大地から突き出て、おいでおいでをして招いていた。
這いつくばった仲間を無理矢理テントに連れ戻し、まんじりともせず夜を越した。
翌朝、白い手は跡形もなく消えていた。
誘われた仲間は、昨夜のことをまるで覚えていなかったそうだ。