会社員に聞いた話。
ダムサイト(ダム用地。ダム建設の敷地。)で弁当を食べた後、柵にもたれてダム湖を眺めていた。
強い陽射しの中、断崖の下の湖面には真っ黒な影が広がっている。
すると、聞き慣れない音が聞こえてきた。
紙を擦り合わせるような乾いた音。
聞こえると言うより、耳鳴りのように頭の芯に響いて意識を揺さぶる・・・。
「**さん!」
突然、同僚に後ろから呼び掛けられて我に返った。
上半身が覗き込むように断崖の方に乗り出していて、両足が宙に浮いている。
いつのまにか柵を乗り越えようとしていたらしい。
そこで初めて気が付いた。
真昼のこんな時間に、影があんなにも広がるはずが無い・・・。
慌てて柵を離れようとした時、湖面の影が無数の人型に分かれてサ─ッと散った。