赤い手袋に導かれる

カテゴリー「不思議体験」

時期は2月下旬、私はメインの縦走路を2日目の途中から外れる2泊3日コースを計画。

2日目の深雪ラッセルに苦労し疲労が溜まり、予定よりかなりスローペースながらも、最終日、冬の間殆ど人が入らないと言う登山道を何とか辿っておりました。

この島は雨が多く森が深く、ハイキング気分で山に入って遭難する人も多い島。
実際に、最終日の道はメインコースでは確かだった赤いリボンも樹の成長や激しい気候によってかかなりの数が切れ落ちてしまっており、幾度となく、落ちて流されたリボンをそうと判らず辿ってしまい行き詰っては地形図を確かめ登り返し、ということを繰り返していました。

何度目かの間違いで沢まで下りてしまった時、溜りで透明の大きなゴミ袋を見つけました。

真ん中に30cm程の切れ目があり、誰かが雨よけに被ったのを捨てていったのかと思い裂け目を結び止め目に付いたごみを拾いつつ、袋を引きずりとぼとぼと足を進めました。

体重の70%ものザックを背負い歩いたのはその時が初めてで、正直言って体力は限界。

惰性でそれまでで一番大きな倒木を乗り越えた時、横の潅木にゴミ袋が引っかかりました。

ああ、もう、と呟きながら絡まりを解こうと横を見た先に、何か赤いものが見えたのです。

手袋でした。

片方だけのその手袋は割と綺麗で、まさか中身は入ってなさそうだし、と恐る恐るながら取り上げました。

冬山用のしっかりしたものでした。

その辺りは昨日今日やっと雪が溶けたくらいでしたからこんなもの失くして大変だったんじゃないかな、そう思いつつゴミ袋の端にくくりつけてまた歩き出しました。

何となく届けようという気がありました。
手袋ひとつで警察まで行くのは大仰な気もするけど、登山道の最後はハイキングコースに重なっていて夕方早い時間なら管理詰所に人もいる、そこの人に預けよう。そう思って時計を見ると14時。

地図上のコースタイムではそこまで2時間半。
管理の人は16時頃には帰りそう・・・。

それからは嘘のように足が動きました。

もう道を間違えることもありませんでした。

ハイキングコースに入ってからは走るように進み、コースタイム1時間の所を30分で抜け登山口の詰所に着いたのは15時50分。
でも残念ながらもう詰所は閉まった後・・・

しかし私は全く躊躇せずザックからノートを取り出し、手袋を拾ったこと、拾った場所と日時自分の携帯電話番号を書き、手袋と一緒に詰所のドアノブにビニールテープでぶら下げました。

まるで手慣れた仕事をするように考え込むこともなくその作業を済ませ山を降りましたがその日は疲れきっていて下山後入った温泉から3時間も立ち上がれませんでした。

数日後、島の他の山から降りてくると携帯の留守電に警察からのメッセージがありました。

指定された番号にかけてみると、赤い手袋のことでした。

山に入ったまま行方不明になっている方の所持品と同じだったらしく拾得場所を詳しく聞かれました。

観光案内所などに貼ってあったチラシの尋ね人のことだな、とぼんやりと思い、電話の後立ち寄ったスーパーマーケットにもあったそのチラシの写真を何気なく見てみると単なる偶然でしょうがその写真でその人はゴミ袋を合羽代わりにしていました。

その人が見つかったのかどうか、その後のことは存じ上げません。

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